上場を機に、企業は投資家との対話や企業価値の説明責任を本格的に担うことになる。 新規上場企業はその準備と実践をどう乗り越えたのか。IRの現場に迫る。
大型上場として注目を集めた東京地下鉄の上場。上場に向けては、海外投資家も含めたステークホルダーと積極的にコミュニケーションを取り、価値創造プロセスを軸としたエクイティ・ストーリーの発信を行った。
東京地下鉄は、2004年に帝都高速度交通営団(営団地下鉄)が民営化して誕生した会社だ。社債を発行するため、有価証券報告書は2004年当時から作成していた。民営化後も株主は財務大臣と東京都の二者のみという特殊な状況だったが、2024年に上場したことで本格的なIR活動を開始した。
「民営化した時から上場への機運はありましたが、2021年に国土交通省の交通政策審議会が答申を出したことで上場準備が本格化しました」と話すのは、経営企画本部IR室IR戦略担当課長の平田昌弘氏。証券会社のセルサイド・アナリストや機関投資家とのディスカッションをすることから、IR活動が始まったという。
アナリストや機関投資家とのディスカッションに際しては、まずは会社のエクイティ・ストーリーを作成した。上場後どのように成長していくか、自社の強みは何か、経営戦略はどのようなものか、それらを踏まえて今後どのような会社を目指すのか、といったストーリーだ。それを提示し、受け取ったフィードバックを基にブラッシュアップ。ディスカッションを通じてエクイティ・ストーリーを磨き上げた。
その後、2024年9月に東京証券取引所への上場承認が得られたことで、「株式上場準備室」を「IR室」に変更した。
適時開示体制を整備
2024年10月の上場後は、IR体制をゼロから構築した。「当社のIR部門は、全員が当社内でキャリアを積んできたプロパー社員で、IR未経験者ばかりでした。そのため、主幹事証券会社と繰り返し議論しながら体制を作り上げてきました」と平田氏は話す。比較可能性の観点から同業他社の動向を研究し、開示する情報の内容や粒度を検討した...
