スペイン風邪と広報、歴史からの教訓

公開日:2020年11月26日

  • 国枝智樹(上智大学)

私たちに大きな影響を与えている「疫病」。海外の疫病にまつわる歴史的な出来事から、現代に通じる「広報」の意義や役割について紐解きます。

命か経済か。コロナ禍ではこの問いを巡る議論が続いているが、百年前のスペイン風邪で問われたのは命か勝利か、であった。流行が始まった1918年は第一次世界大戦の最後の年。参戦国は感染対策よりも勝利を優先した。結果、対戦の戦死者よりはるかに多くの病死者が発生。スペイン風邪は戦時プロパガンダの影響を強く受けた疫病だった。

報道規制から生まれた誤解

そもそもスペイン風邪はスペインから広まったウイルスではない。当時、大戦に参戦した諸国が、国内や軍隊でのインフルエンザ流行の情報を隠蔽する中、中立国スペインでは報道が規制されておらず、スペインの感染に関するニュースが広まった。こうしてスペインが発生源という誤解が生まれたのだ。

同国では1918年5月頃から疫病に関する報道が増え、日本でも「大阪毎日新聞」が6月6日、国王アルフォンソ13世らを含む国民の3割が病名不明の奇病にかかったと報じている。疫病の発生源や感染経路の特定は、風評被害を防ぐためにも重要。この歴史が示す事実を、コロナ禍を生きる広報担当者は胸に刻んでおきたい。

戦時プロパガンダの下で疫病の情報を隠蔽したために自国の被害者を増やした典型はアメリカだ。当時の大統領ウッドロウ・ウィルソンは1916年に欧州の戦争に参戦しないことを訴え大統領選挙で再選されたものの、翌年春にはドイツに宣戦布告...

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