この世には「バカ」がつくほど愛される、PR上手な商品・サービスがある。そんな「PRバカ」と呼べる存在を求めて、筆者が仕掛人を訪ねていきます。

(中)日本航空 コミュニケーション本部 コーポレートブランド推進部 Webコミュニケーショングループ長 山名敏雄さん
(右)同グループ 春花祐太さん
(左)商品開発コンサルタント 美崎栄一郎(筆者)
File:9 日本航空(JAL)

4月28・29日に開催された「ニコニコ超会議2018」に出展したJAL。社員が出演した「踊ってみた」には約1500人のお客さんが参加した。
4月末のこと。ゴールデンウィーク突入寸前だというのに、広報会議の編集長から「JALの現役客室乗務員や社員の皆さんで『ワールドワイドフェスティバル』を踊ってみた!」という動画が熱いから、4月29日に「ニコニコ超会議」の会場まで見に行ってみて!と指令が飛んできました。休日返上、決定です。ですが、おかげでPR担当者が意識すべきことに気づけました。
「安全・安心」と「挑戦」の両立
挑戦することと、安全・安心を守るということの両立はとても難しい。広報においてもそれが求められますが、人の命を預かるインフラ事業では、より厳しい基準があると想像できます。それなのに、日本航空(JAL)という日本を代表するインフラキャリアが「ニコニコ超会議」に出展した理由は何なのでしょうか。私が最初に思った素朴な疑問です。
ちなみに「ニコニコ超会議」とは2012年に始まった、ニコニコ動画のユーザーがリアルの場に集まるイベントです。2018年は16万1277人を動員したそう。私が会場の幕張メッセを訪れた日も大賑わいで、JALのほかにもヤマト運輸、NTT、三井住友銀行といった企業や、岩手県、鹿児島県曽於市などの自治体もブースを出していました。JALは2015年から毎年、出展しているそうです。
JALブランドを社外に発信するコーポレートブランド推進部で、企業サイトやSNSの企画など、ウェブコミュニケーションを中心に担当する春花祐太さんの答えは明確でした。
「JALのお客さまはお子さまからご年配の方まで多岐にわたります。従来であれば、SNSを使えば若年層にアプローチできると言われていましたが、最近ではSNSだけでは、若年層との接点を構築することは難しくなってきていると感じます。ウェブコンテンツのニコニコ動画だけにとどまらず、ニコニコ超会議のような会場で直接接点を持てる、そうしたウェブとリアルが融合したアプローチを目指してニコニコ超会議に出展しました」。
動画でのPRが重要だと分かっていても、拡散されるコンテンツをつくるのは大変です。炎上してはいけませんしね。そのあたりはとても気をつけて設計されているようです。踊りの振り付けひとつとっても、JALのイメージに合っているかをちゃんと考えているそうです。
動画自体は「JALの現役客室乗務員や社員の皆さんで『ワールドワイドフェスティバル』を踊ってみた!」とサラッとしたタイトルですが、実際には細かく設計していると思うと他社の広報担当者の方でも動画企画を考えるときのヒントになりそうですよね。
美崎's eye

「踊ってみた」が始まると、ステージの前には人だかりが。有名タレントが出ているというわけではないのにこの盛り上がりはすごい!
ブランド価値は「人」にあり
全員現役の客室乗務員で構成されるチアダンスチーム「JAL JETS(ジャルジェッツ)」は1986年設立で結成32年を迎えます。JALの民営化に向けた企業PRの一環として結成されたのが発端です。
今までは彼女たちのダンスを見る機会は限られていたと思いますが、YouTubeやニコニコ動画など新たなメディアのおかげで、私たちはすごいダンスを見ることができるわけです。JAL JETSを継続しているうちに、動画コンテンツの盛り上がりが追い風となった感じです。ニコニコ超会議の会場でも、JAL JETSの皆さんが登場したときには一段と盛り上がりました …