先月、PR業界史上最大となる合併が発表された。業界6位のバーソン・マーステラと12位のコーン&ウルフによる新会社「バーソン・コーン&ウルフ」は、世界42カ国に4000人のスタッフを抱えることになり、世界ランキング3位のPR会社となる予定だ。世界の業界関係者を驚かせたこのビッグニュースには、日本のPR業界にとっての示唆もある。今回はこのニュースの背景に目を向けてみよう。
バーソン・マーステラといえば、世界的に著名なPR会社。かつては世界ランキング1位を誇り、グローバルPR会社のお手本のような存在だったが、近年は売上が低迷。お得意であったコーポレートやBtoB領域が伸び悩み、また保守的なカルチャーが仇となって、コンシューマーやデジタル、ソーシャルメディアなどの成長領域に乗り遅れた。
対照的なのがコーン&ウルフで、ここ数年は毎年10%以上成長し、2016年には北米で「Agency of Year」のシルバーも受賞。革新的なPR会社として評価されていた。そこで、両社を傘下にもつWPPグループは、低迷するPR領域の起死回生を図るべく2社を合併させ、バーソンの3分の1の規模であるコーン&ウルフを率いてきたドナ・インペラート氏を新会社のCEOに任命した。
この合併劇には、現在のPR業界におけるいくつかの示唆がある。まず、2000年ごろまでにグローバル化を遂げた大手PR会社には、踊り場を迎えているファームが少なくないということだ。この10年間の情報環境の変化に適応できていないPR会社は失速し、業界再編が進むだろう。これはグローバル広告会社にも言えることで、WPP総帥のマーティン・ソレル氏もその点をほのめかしている。

バーソン・コーン&ウルフのCEOに任命されたドナ・インペラート氏。
もうひとつが、女性のリーダーシップの本格化だ。「女性活躍」のイメージどおり、現場では実に70%が女性従事者というPR業界だが、経営層レベルでは「男性優位」な面もあった。
「男はコーポレート」「女はコンシューマー」という具合に、企業広報や危機管理などいわゆる「かたい」仕事のフィーは高く、男性の仕事。消費者相手の「やわらかい」仕事は女性に、というわけだ。あらゆる企業活動に生活者視点が欠かせなくなった今、このヒエラルキーは崩壊しようとしている。
大合併によって、コーン&ウルフの良さがこの規模で維持していけるのかどうかという懐疑的な見方もある。「最大のチャレンジは社内コミュニケーションでしょう。新CEOのドライなやり方と、旧バーソン社員の確執が予想されます」と元バーソン・マーステラの上級役員は言う。世界最大規模のコミュニケーション会社の未来が社内コミュニケーションにかかっている。何とも皮肉な話だ。ではまた来月!

日本のPRパーソンにとっては学ぶことがたくさんある海外情報。5年目を迎えた本コラムでは、そんな「情報格差」をなくすべく、様々なトピックスをお届けしています(筆者)
本田哲也(ほんだ・てつや)ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。著作、国内外での講演実績多数。カンヌライオンズ2017PR部門審査員。最新刊に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 |