2017年4月、メルカリの取締役社長に就任した小泉文明氏。大和証券でIT企業の新規株式公開(IPO)を担当した経験もある小泉社長に、経営戦略における広報活動強化の狙いや展望について聞いた。

(左)メルカリ 取締役社長兼COO 小泉 文明(こいずみ・ふみあき)氏
早稲田大学卒業後、大和証券SMBC(現・大和証券)にてミクシィやDeNAなどのネット企業のIPOを担当。2007年からミクシィにジョインし、取締役執行役員CFOとしてコーポレート部門全体を統轄する。2012年に退任後はいくつかのスタートアップを支援し、2013年12月メルカリに参画。2014年3月取締役就任、2017年4月から現職。
(右)メルカリ PRグループマネージャー 矢嶋 聡氏(やじま・さとし)氏
1978年生まれ。早稲田大学卒業後、ネットベンチャーの立ち上げ、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン(現LINE)入社。2014年にマーケティングコミュニケーション室室長。2017年8月にLINE退職後、2017年10月にメルカリ入社。現職。
内情を隠す時代はもう終わり
──最近では、「メルカリ」の名前を聞かない日はないくらい、数多くのメディアに取り上げられています。小泉社長はPRの役割について、どのように考えていらっしゃいますか。
広報は、会社の想いやメッセージを各ステークホルダーに正しく伝える役割を担うとても重要な存在だと思います。メルカリでは2013年の創業以来、広報は社長の近くに席を置き、常に会社の考えがダイレクトに伝わるようにしてきました。
経営戦略における広報の目的は2つあります。ひとつ目は、日本のベンチャー企業にとって喫緊の課題である「採用」です。二つ目は、より多くの人にメルカリが提供するサービスの価値を理解してもらい、利用してもらうこと。私は広報が機能しないと採用は進まないし、サービスも伸びないと考えています。
──広報活動において、重視していることは何ですか。
会社の内部のこともできる限り「オープン」にすることです。現状、ほとんどの会社が「クローズ」してしまっています。ノウハウが流出する、優秀な人材がヘッドハンティングされてしまうなどと、内情を話すことに対してのリスクを考えすぎかなと思います。
「働き方改革」の時流もありますが、私は、社員の働きがいを向上させるには、個人が取り組んできた仕事やそれに対する想いを外に向けて発信し、社会からの共感を得ることが大切だと思います。そうすることで仕事に対する納得度も上がり「これからも今の会社で頑張ろう」というフィードバックになります。隠す時代はもう終わったな、と思っています。
メルカリでは、ほぼ毎日更新しているオウンドメディア「mercan(メルカン)」が、会社をオープンに保つためのプラットフォームとして機能しています。

ほぼ毎日更新しているmercan。社内の様子の紹介や社員インタビューなどコンテンツも充実している。
メルカンは、今の時代に合わせて設計した情報メディアです。2000年代までは例えば新聞やテレビなど、誰もが知るメディアに出て広めることが中心でしたが、今は面白い記事であればどのようなメディアであってもシェアされ拡散します。
例えばメルカンで2017年末にクリスマス特別企画として公開した動画「メルカン編集部に73の質問」は、約4万ビューを獲得することができました。VOGUEが著名人に73の質問をした単独インタビュー動画「73 Questions」のパロディがウケたようで、メルカリの社内の雰囲気やカルチャーなどを多くの方に分かってもらえたと思います。
少し前までは、企業のオウンドメディアがここまで見られることはありませんでした。でも今は「いかにテレビに映るか」よりも、「いかに価値のあるコンテンツをつくり、シェアされるか」が重要になっています。そういう意味では、広報活動の重心がコネクションよりも「企画力」に移ってきているかもしれませんね …