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リークによるスクープ記事とインサイダー取引のリスク

テレビ局報道記者出身の弁護士が法務とメディア、相互の視点から特に不祥事発生時の取材対応の問題点と解決策を提言します。

図1 新規事業に関する新聞記者へのリークはあり? なし?

金融商品取引法の「インサイダー取引」が行われるリスク
インターネット関連事業を営む上場企業A社は、シニア世代向けの新規事業αを展開することに

この新規事業αの内容は、これまでのA社の事業と比べて、大きな将来性が見込まれる分野であり、A社としても、市場が好意的に受け止めてくれるのではないかと期待している

A社の広報担当者X氏は「新規事業αの展開について、なるべく大きな記事として取り扱ってもらいたい」と考え、経済ニュースを専門とするB新聞のY記者に、独占ネタとしてスクープさせることを思い付いた

今回は、図1で挙げた事例をもとにして、特定のメディアにだけ情報をリークし、スクープ報道をさせようとする手法に潜むコンプライアンス上のリスクについて取り上げることにします。まずは、こうした手法のメリットについて、私の記者としての経験を踏まえてお話しします。

広報担当者の皆さんは、どうすればメディアに自社のトピックを大きく(好意的に)取り上げてもらえるかということを、常に意識されているかと思います。各メディアに自社のトピックを少しでも大きく取り上げてもらうためには、日ごろからどのメディアとも分け隔てなく、良好な関係を維持しておくというのがまずは重要だと思います。

もっともメディアの側からすれば、正直なところ、会社側から同時に発表されるネタについて、(ニュースバリューの大きさにもよりますが)なかなか多くの紙面や放映時間を割こうという考えには至りません。各社横並びのネタよりも、独自ネタ・スクープ報道の場合に、より大きく取り扱おうと考えるのがメディアの習性です。そこでこうした習性を踏まえて、特定のメディアにだけ情報をリークし、スクープ報道として大きく取り上げてもらうという手法が用いられることがあります。最初のスクープの後、他メディアが追随しスクープ合戦が2~3日間続くことになれば、会社の広告・宣伝効果は非常に大きなものとなります。

金融商品取引法の「重要事実」に要注意

他方でこうした手法には、金融商品取引法(金商法)上のインサイダー取引規制との関係で一定のリスクがある点に留意する必要があります。

インサイダー取引とは、「会社関係者」「元会社関係者」または「情報受領者」が、職務や地位により知り得た会社の業務などに関する「重要事実」を知った上で、当該事実が「公表」される前に、その会社の株式などを売買する行為のことを言います。このようなインサイダー取引は金商法によって禁止されており、違反した場合には刑事罰や課徴金の対象となります。重要事実を知り得る特別な立場にある人が、公表される前に自由に株式などを売買できてしまうと、一般の投資家が極めて不利な立場に置かれてしまいます。放置すると金融商品市場に対する信頼が失われかねません。

インサイダー取引における「重要事実」には、「新たな事業の開始」も含まれます。もっとも、「新たな事業の開始」がすべて「重要事実」に含まれるわけではないという点が実務的には重要です。具体的には、新規事業の開始によって見込まれる売上高の増加額および新規事業の開始のための支出額が、対象となる会社全体の事業規模と比較して、一定の割合未満に留まることが見込まれる場合、投資判断に与える影響が小さいことから「重要事実」には含まれないとされています。

したがって、この例外的な基準(これを「軽微基準」といいます)を満たす事実については、インサイダー情報には該当しないことになりますが、ここでは話を単純化するために、新規事業αはA社に与える影響が大きい「重要事実」に該当するものとして先に進みます。

リークの先に編集・校正担当者もいる

次に、「情報受領者」には「会社関係者」から「重要事実」の伝達を受けた者が含まれるところ ...

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