協賛企業から出される商品・サービスの課題解決策となるアイデアを企画書形式で募集する「販促会議 企画コンペティション(販促コンペ)」。2024年9月、約5000点の応募の中から第16回のグランプリに輝いたのが、ワコールの課題で応募された「ワコール授乳室」という企画。ワコールの試着室を授乳室にすることで来店促進を図るアイデアだ。果たしてグランプリ企画はどのようにして生まれたのか。受賞した王 一伊氏に、企画背景やアイデアの発端、企画時のポイントについて話を聞いた。
復職後すぐのグランプリ受賞 約1カ月間で練り上げた企画
──まずはグランプリの受賞、おめでとうございます! 今のお気持ちをお聞かせください。
まさかグランプリを受賞できるとは思っていなかったので、ただただ嬉しい気持ちでいっぱいです。
今年の5月まで約1年間、産休と育休をとっていました。復帰直後に「販促コンペ」に取り組んで受賞したので、これをきっかけにいろんな人から声をかけてもらいました。意外だったのは、女性だけではなく、男性からも「男性が関わる授乳問題も大変なことが多い。そういう意味でも良い企画」と言ってもらったことです。
──企画時、意識していたことはありましたか。
私は企画するとき、「見た人がどう感じるか」という部分を意識しています。これは、過去に企業SNSの“中の人”を担当していた経験から、心がけている部分です。SNSの投稿も企画書も、ぱっと見て伝わるかどうか、人に伝える際に一言で言い表せるかどうかが重要だと思っています。
次に企画書づくりです。多くの企画を見る審査員の目に留まるような、少しでも印象付けられるような企画書にすることが大事だと思っていました。
読み手がストレスのないように視線の動線をつくったり、続きが気になるようなページ割りを組み立てたり、無機質な企画書ではなく自分の人となりが少しでも伝わるように体温を加えたり。いろんな工夫をして企画書をつくれるようにしていましたね。

ワコール授乳室とは?
ワコールの課題「より多くのお客さまに、もっと気軽にワコールの店頭に来てもらえるようになるアイデア」に対して、店舗の試着室を「授乳室」として開放するというもの。王氏自身が、授乳室を探し回った実体験がベースになり、授乳室不足の課題も解決する企画。最終審査員からは、「社会課題に寄り添う姿勢は、結果的に販促につながる」「企業視点で考えるとオペレーションを整備する必要性はあるが、予算をかけずに試着室を有効活用できる」と評価され、見事グランプリに選出された。
「当事者」として考えた嘘がないアイデア
──今回の「販促コンペ」はどれくらいの企画を応募しましたか。
幅広く応募しようと、15社くらいの協賛企業課題に対して、全18企画を提出しました。なので、各社1~2本の企画を用意したことになります。ワコールの課題は、「ワコール授乳室」ともうひとつの計2作品を応募しましたね。
──そのうち、「ワコール授乳室」のアイデアはどう生まれたのでしょうか。
何よりも、私自身の実体験がもとになっています。出産後は、授乳に関する悩みやブラジャーのサイズが変わると、悩みが尽きませんでした。
ただ、プランナーとしての私はこれまで、自身の困りごとをもとに企画をすることはあってもその困りごとを解決するために「企業にこうしてほしい」と思うことはありませんでした。
しかし今回は、私の困りごとと企業(ワコール)の持っている理念と提供価値が奇跡的にマッチングしたんです。
つまり、自分が「企画者側」としてではなく、「当事者側」として考えられた企画だったからこそ、受賞につながったのではないかと思っています。「企画者」から、ただただ弱さ全開のリアルな「生活者」に変わったことで、企画に説得力と自信が生まれ、むしろ強い企画になったのだと考えています。
また、企画には「気恥ずかしさがゼロ」という点も大きいと思います。というのも、企画者あるあるとして、自分の企画が恥ずかしいと思う時があるんです。派手な企画だし、実現できたらかっこいいけど、詰められたら困るし、否定されたら傷つくし……と。
ただ今回の企画は派手さがない分、嘘がなかったので、気恥ずかしさがありませんでした。今回「販促コンペ」のグランプリに選ばれなくても、私の中では「嘘のない企画グランプリ」として選んでいたと思います(笑)。
自己採点で満点だった企画 実体験から生まれる企画の強さ
──企画後、受賞の手ごたえは感じていましたか。
正直、謎の手応えはありました(笑)。というのも実は、今回応募した全ての企画を自己採点していたんです。オリジナルの評価基準ですが、以下の6つにもとづいて自己採点しました。
① そのブランドで実施する必然性があるか
② ワンフレーズで表現できるか
③ 施策は鮮やかで楽しいものか
④ ターゲットインサイトは明確か
⑤ 実施のハードルは低いのか
⑥ 社会での広がりがある企画か
その中でも、「ワコール授乳室」は自己採点の点数が最も高くて。5点満点の各項目すべてを満点でクリアし、計30点の評価をつけていました(笑)。
また、受賞結果が発表されるまでも、この企画だけは実施後の様子まで想定し続けていました。例えば、ニュースサイトに載るイメージができるのか、またSNSでの投稿後の反響、さらには「授乳」といっているが、母乳ではないミルクの場合も利用を許可するかといったルール面での課題、女性ではない保護者の場合はどうするか、お客さんからのクレーム対応や店頭スタッフのオペレーション、そもそも現場の方がこの施策をどう思うのか……などと、勝手に頭の中で考え続けてしまうような。それくらい自分の中でも反芻した、思い入れのある企画でしたね。
──次回の応募者に向けてアドバイスをお願いします。
お伝えしたいことは2つ。1つ目は「頭ではなく、足で考えた」からこそ、この企画にたどり着いたことです。
ワコールの課題に提出したもう一つの企画は、机上論で自己満足に近い企画でした。そこで、実際にワコールの店舗に行ってみようと思ったのです。
すると、イメージしていた店舗とは全く違っていて。店舗で得た気づきが、今回の企画の土台になっていきました。
そのため、頭で考えるだけではなく、実際に体験して企画してみることが1つ目のアドバイスです。
2つ目は、企画を顧客体験から逆算した時に、「人間の生きやすさは、選択肢の多さ」だと気づけたことが、良い企画になった要因だということ。「ワコール授乳室」は「こういうアイデアを考えつきました!使ってほしいです!」と強く訴える企画ではないかもしれませんが、授乳室という場所の選択肢を増やすことで救われる方がいる。それにより企業は彼らの選択肢として存在できる。こんな企画も、ある意味、強い企画ではないでしょうか。
この考え方は、「販促コンペ」の応募時に役立つのではないかと思います。最近は、最初の顧客体験づくりを考える時も、「このブランドの商品を使わないといけないわけじゃない。でも本当に困った時はこんな選択肢もあるよ」という心構えで、より生活者に寄り添った企画ができる気がします。
今回、グランプリを受賞できたことは、私自身にとって今後の仕事の方針をつくる上で大きな糧となりました。これからも困っている人の選択肢を増やす企画を考えていきたいです。

電通
コピーライター
CXプランナー
王一伊氏
「何気なく目に入る広告で人に良い気づきを与えたい」という想いから広告代理店に入社し、クリエイティブ全般に携わる。これまで、企業のSNS運用も経験。現在はカスタマーエクスペリエンスづくりに従事し、特に「生きる」「QOLの向上」に関わる商材に注力。
次回、第17回「販促会議企画コンペティション」は2025年4月1日より応募を開始する予定です。詳細および最新情報については今後発売される月刊『販促会議』をご覧ください。
また、ご協賛いただく企業の募集も受け付けています。幅広い視点から企画が集まる「販促コンペ」は、応募作品を実際の広告制作や展開に生かせるだけでなく、商品・サービスの新しい切り口の発見にもつながるといったお声をいただいています。
お問い合わせは、販促コンペ企画コンペティション事務局まで
(TEL:03-3475-3010 MAIL:spc@sendenkaigi.com)