もちもちとした弾力となめらかでコシのある食感―。生の麺を再現したような味わいで、2011年11月の発売から人気を誇る東洋水産の「マルちゃん正麺」。累計出荷数で10億食を達成し、2016年に発売5周年を迎えた。いまや「定番ブランド」として定着している同商品の誕生秘話とは。

切り出した生の麺をそのまま乾燥させる“生麺うまいまま製法”で、袋麺の常識を覆す食感を実現。「マルちゃん正麺」は袋麺市場に再び活況をもたらした。大ヒットにつながった独自の特許製法をはじめ、開発に5年の歳月をかけた自信作はいかにして生まれたのか。東洋水産で商品開発を担当する隅田道太氏に聞く。

東洋水産 商品開発 隅田道太氏
―「マルちゃん正麺」は発売5周年を迎えました。現在も年間1億食以上を販売し続けるヒットの要因をどのように考えていますか。
隅田道太氏▶︎ 開発をはじめた当時、袋麺とカップ麺を合わせた即席麺の市場は、好調に推移していました。しかし、実際には袋麺自体の需要はダウントレンドの状況※。カップ麺が麺の質や具材、容器などを変化させていった一方で、麺とスープだけというシンプルな袋麺は、新たな違いを生み出せていませんでした。進化できずに立ち止まりかけていた袋麺市場で、基本に立ち返って品質を追求し、お客さまの期待以上の商品を提供できたことが、ヒットにつながった大きな要因だと考えています。
袋麺はこれまで「ほかに食べるものがないから袋麺でいいか」と便利づかいされる商品だったと思います。そこから、しっかりと調理した食事と遜色ない品質まで高めることを目指しました。そして、実際に召し上がった消費者の方々が品質に驚いていただけたことで、新たな需要が芽生えていったのではないでしょうか。
袋麺市場はダウントレンドとはいえ、全体で見れば年間約17億食と大規模な市場です。新商品を出しても市場が伸びないという状況でしたが、私たちも即席麺メーカーとして取り組めることがまだまだあるのではないかと、開発当時は考えていました。
※「酒類食品統計月報5月号」によれば、2015年度(4~3月)の袋麺市場 は1210億円と114 2017.2 前年並みだが、カップ麺は4285億円(前年比105.2%)。
―「マルちゃん正麺」誕生までの経緯を教えてください。
隅田氏▶︎ 当社では、毎週のように新商品を発売していました。ところが、それでは商品の開発期間が短いため、絶え間なく新商品を開発し続けなければいけません。じっくりと腰を据えて開発をすることが難しい状況を打破するため、2006年に研究所内に中長期にわたる新規開発を目的にした部隊を新たに立ち上げました。そこで、これまでにない新たな麺を作り出すプロジェクトをスタートさせたんです。
当時は発売の5年前で、「マルちゃん正麺」という商品名も何も決まっていない状態。そこから研究所がチルド麺や冷凍麺など、さまざまな麺を開発してきた経験を生かし、「マルちゃん正麺」の“生麺うまいまま製法”の核となる技術を、3年ほどかけて開発したんです。
2009年になり、はじめて私を含めた所属する部署のメンバーが、研究所による新たな麺の試食に呼ばれました。そこで出てきたのが「マルちゃん正麺」の試作品。食べた際の率直な印象は ...