企業が売り上げを高め、顧客を拡大――その過程にはいつでも販売の現場を大切にする社長の知恵が生きている。本連載では、販売の現場から次々とユニークなプロモーションを生みだす成長企業の経営陣を紹介。その販促の考え方を取り組み方とともに紹介する。
取材・文 上妻英夫(KIプレス)/経済ジャーナリスト メルマガ「いま、売れる方法はこれだ!『上妻英夫の販促大学』」

「営業から設計、監督、施工、メンテナンスまで一貫し責任体制で仕事を請け負うという、建設業界の常識と真逆だからこそ勝てると思った」と話す、代表取締役社長の秋元久雄氏
大工や職人を社員として内製化
震災復興や景気回復で建設業は息を吹き返しているが「仕事はあるが職人がいなくて仕事が進まない」という現実問題を抱えている。そうした画一的な建築業界の中で、異色企業として知られているのが静岡県沼津市に本拠地を置く平成建設である。1989年に創業して以来、他社との差異化戦略で年平均二ケタ成長で増収を続けているばかりでなく、業界内でも注目すべき斬新な経営手法で、その名が全国的に知られる存在になっている。
同社はほかの建設会社と違い、独自の視点の経営・方法を貫いている。現在、従業員520人のうち、職人が200人、売り上げも伸び、140億円(2013年10月期)の優良企業だ。従業員の平均年齢は33歳と若い。建設業界の景気に左右されることなく、毎年実績を伸ばし続けている。
「ちょっと前までは仕事がなくて困っていた会社が、今では仕事は増えたのに職人不足に陥って困っていることが少なくない。当社は社員の約4割を職人集団が占めており、その職人集団の多くが大学の建築学科卒で新入社員も多いため"高学歴大工集団"と言われています。先を読んで手を打ってきましたから、職人不足にはなりません」と秋元社長。
同社の最大の特徴は、職人を育て、建築のプロセスを内製化し、下請けに頼らない新しい建築の構造を生み出していることである。現実の建設業界は、早く安く効率的に建築物を大量生産しているので、現場の工程は細分化され、高い技術が不要になっている。建築のプロとしての職人の技術が育ちにくくなっているのだ。
この内製化という真逆の発想こそ秋元社長の独自性であり、経営哲学である。秋元社長の著書はいくつかあるが、その中の『匠・千人への挑戦=大きい船に乗るな』(河出書房新社刊)には、現場で語った雑感50話を収録している。ここに同社成長の秘密がある。その中から三つほど紹介する。まず「人と同じことはしない」という言葉。「ぼくはへそ曲がりなところがあって、人と同じことはなるべくしたくないんです。営業から設計、監督、施工、メンテナンスまで一貫し責任体制で仕事を請け負う、いわゆる内製化は建築業界の常識と真逆の発想でした。中でも、大工や職人を社員として育てる会社は皆無でした。知り合いの社長数人に聞いたところ、全員が反対でした。この人たちは真似しないな、だったら一人勝ちだと決断しました」
また「人生を決定づけた言葉」として、明治から昭和にかけて活躍した後藤新平(医師、官僚、政治家)の言葉を挙げている。「『金を残して死ぬ者は下』『仕事を残して死ぬ者は中』『人を残して死ぬ者は上』。39歳でこの言葉と出会ってから、『人を育てる。人を残す。』これがぼくの生きがいになった。若い人の成長する姿は何事にも代えがたい喜びです」(秋元社長)。
さらに、「部長は部下が決める」という言葉だ。秋元社長は「部長をその所属する部下(社員)が投票で決めるというシステムです。仕事ができるか、信頼できるか、ついていけるか、を評価するものです。社員が納得する組織づくりを目指しています」と話す。

同社は全従業員520人のうち、職人が200人と4割にも及ぶ。建築学科卒の新入社員も多いため"高学歴大工集団"と言われている。
顧客と社員のパイプづくりによる販促
同社の販促戦略は独特だ。秋元社長は「モノや金銭的メリットで顧客を釣るようなことは本来の販促ではありません。社員を育て、顧客といい関係づくりができるようにすることが販促で大事なことです。顧客が喜ぶこと、独自性が実現してブランド化することが一番販促効果が高いのです」と話す。