2025年の海外クリエイティブアワードでは何が語られたのか?カンヌライオンズやD&ADにて現地で審査を務めた3人が、審査のポイントや、そこから見えてきたクリエイティブ産業の3つのホットトピックスについて掘り下げます。

3つの部門、それぞれの審査基準
田中:今回は2025年の海外クリエイティブアワードにて、審査員を務めた3人が集まりました。僕がカンヌライオンズのデジタルクラフト部門で、幹太さんがイノベーション部門。そしてZun-ZunさんはD&ADのラグジュアリー部門で審査を担当したんですよね。お2人が担当した部門での審査のポイントを改めて教えてもらえますか?
清水:イノベーションとは、それが登場した後に生活の中で“普通”のものとして溶け込み、透明化していくもの、と捉えています。審査も同様に、それが生活の中で透明化し、事業性も含めて社会の中できちんと広がりを生んでいくかどうか、という点は真剣に評価されていました。
Zun-Zun:D&ADのラグジュアリー部門の審査員は、約半数がラグジュアリーブランドのインハウスのクリエイターで、残りの半数が広告会社に所属してラグジュアリーブランドの広告などを担当しているクリエイターです。その中で私の役割は、多様な文化視点、特にアジアと若年層の観点を審査のテーブルに持ち込むことと捉えていました。
審査で重視したポイントは6つ。「ブランドと文化の関連性」「エモーショナルな繋がり」「本物の繋がり」「クラフトマンシップ」「美しい表現」「革新性」です。クライテリアは「アイデアにインスピレーションがあるか」「完成度の高さ」「パーパスに合った内容か」の3つで、これらを組み合わせて審査が進みました。約100点のエントリーがありましたが、受賞作品は11点。厳しいカテゴリーだったと思います。
田中:デジタルクラフト部門は49の国・地域から554の応募が集まりました。今はほとんどの仕事が“デジタルクラフト”に該当するため、おのずと対象も広くなります。僕は審査委員長でしたが、最初のクライテリアの設定が難しくて。「なぜデジタルクラフトって存在するんだろう?」という問いから遡り、3つを審査員に投げかけました。
ひとつ目は「ヒトの心を動かすか?」。これはクリエイティブ産業の一番の強みであり、存在理由でもあります。いかに心を動かし、人の行動を変えて、社会を変えていくか、という視点です。2つ目は「誰かの生き方や価値観、未来を変えるものか?」。クラフトは究極、「愛」だと思っていて。誰かの人生や日常...