「その企画で世界はどれだけ変化したか」デジタルクラフト部門審査の視点

公開日:2025年8月04日

  • 田中直基(Dentsu Lab)

田中直基さん(Dentsu Lab)は今年のカンヌライオンズにて、デジタルクラフト部門の審査委員長を務めた。AI活用にも注目が集まる中、審査の場ではどんな議論が交わされどんな視点で受賞作品が選ばれたのだろうか。

デジタルクラフト部門で審査員を務めたメンバー。カンヌ現地での審査は2日間にわたって行われた。

「クラフト」の定義

今回のカンヌで僕が審査委員長を担当したデジタルクラフト部門は、“デジタル技術とクラフトマンシップが融合した表現全般”を対象とした、非常に広範な部門。実際に今年は49カ国から、メディア、フィルム、サイネージ、Webサービス、アプリなどの、多岐にわたる計554の作品が集まった。審査チームは、南米、アフリカ、中東なども含め多様な地域から集まった9人のクリエイターたち。事前にWhatsAppで顔合わせをし、クライテリアを伝えるところから始まった。

何度も審査は担当してきたが、審査委員長を務めるのは初めての経験だ。カンヌライオンズ公式が定めるデジタルクラフト部門の審査対象は、「technological artistry(テクノロジーの芸術性)」。それを踏まえて、3つのクライテリアを定めた。「それは人の心を動かすか」「それは誰かの生き方や価値、そして未来を変えるか」「そこに狂気はあるか」――ターゲットに最も適切な形で、最も適切なタイミングで、最もやさしく届けているか。そしてその作品が生まれる前と後でどれだけ世界を変えられたか。さらにその企画の裏側に、未来を変えるほどの狂気とも言える執念が込められているか――その狂気こそを、今回の審査における「クラフト」の定義とした。従来クラフト系の部門というと、“表現の領域での複雑で美しさを競うつくり込み”が見られるイメージが強いだろう。しかしクラフトはもはや、表...

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【特集】世界のクリエイティブ AIの先に問われる信頼とリアリティ

2025年も主要な海外アワードの結果が出揃いました。審査や視察で現地を訪れたクリエイターの声や世界で注目されたエントリー作品などを紐解くと、AIの活用が広がる中、ブランドに今改めて問われているのは“信頼とリアリティ”だという状況が浮かび上がってきます。生活者といかに信頼を築いてきたか、そのブランドがその企画に取り組む必然性があるか。そして、現実の世界で実装され、本質的な課題解決に結びつくリアリティがあるか。そんな時代に、エージェンシーやクリエイターに求められる役割とは。主要な受賞作やその分析も交え、これからのクリエイティブの方向性を探ります。