「懐かしい」をリデザインする

公開日:2025年8月05日

純喫茶に銭湯、レコードやカセットテープ、フィルムカメラなど、「エモい」をキーワードに、若者の間でますます盛り上がりを見せているレトロブーム。今回集まってくれたのは、「レトロ可愛い」をテーマにした自身のオリジナルグッズ「レトロ郵便」を展開し、今年5月には地元・山梨県韮崎市に旗艦店「オッポ商店」をオープンした、イラストレーター・デザイナーの小尾洋平さん。こっちのけんと『はいよろこんで』のMV、NHKみんなのうた『ともだちのともだち』など、現代社会を昭和30~40年代のテイストで表現した作品で話題を集める、アニメーション作家のかねひさ和哉さん。YouTubeチャンネル「フィルムエストTV」を主宰、第15回ロケーションジャパン大賞審査員特別賞を受賞した『友近サスペンス劇場』をはじめ80~90年代風の“アナクロ映像”を数々手がける、映像作家の西井紘輝さん。昭和を知らない若い世代のクリエイターは、どのように昭和を解釈してものづくりをしているのか。“昭和100年”のレトロデザインを掘り下げます。

昭和の「再現」ではなく「想像」

小尾:「オビワン」という屋号でデザイナーをしています。コロナを機に個人での活動を始めて、クライアントワークやオリジナルグッズの販売、今年の5月には「オッポ商店」という店舗兼事務所を地元の山梨県韮崎市にオープンしました。

かねひさ:昭和30~40年代の、いわゆる「大人漫画」のスタイルをオマージュしたアニメーションを制作しています。代表作は、こっちのけんとさんの『はいよろこんで』のMVや、NHKみんなのうたの『ともだちのともだち』など。現代の社会において、そうした表現をいかに解釈しうるのかをテーマに活動しています。

西井:2014年に「フィルムエストTV」というYouTubeチャンネルを始めました。テレワークを80年代風のコマーシャルにするなど、現代の流行・事象を昭和の価値観を通して見たらどういうふうに映るのかという映像実験を続けているほか、『友近サスペンス劇場』をはじめ“当時風”ドラマの制作もしています。

かねひさ:僕は幼稚園の頃から漠然と古いものに意識が向いて、小学生の頃にはアメリカのカートゥーンや、手塚治虫先生とか藤子・F・不二雄先生を好きになって。さらに当時のCMソングや音楽など、いろいろな分野に興味が広がっていきました。

小尾:僕も幼い頃からずっと古いものが好きで、みんながNINTENDO64やPlayStationをやっているときにリサイクルショップで見つけたPCエンジンで遊んでいたり、ポケモンカードよりビックリマンシールが好きだったり。ちなみに、お2人は2000年代生まれでしたっけ?

かねひさ:2001年生まれです。

西井:僕は1994年ですね。

小尾:僕はギリギリ昭和の1987年生まれなので、「平成レトロ」や「Y2K(Year 2000)」は懐かしいと感じますが、やっぱり60年代、70年代のものを見たときの感覚は、それとはまた別のもので。

西井:やっぱり、憧れなんですよね。

かねひさ:小尾さんと少し違うのは、物心がついた頃からインターネットが普及していたこと。YouTubeやニコニコ動画などで、昔の作品に触れやすかったというのは、僕ら以降の世代の特徴なのかなと。

西井:僕もたぶん、レトロブームを冷静に把握できていないひとりだと思っています。ひと口にレトロといってもいろんな切り口があって、当時のモノやファッションが好きだという人もいるし、たとえば僕は現代に立脚したうえで昔を見る、その違いを面白がっている。それぞれマイクロコミュニティがあって、それがSNSで可視化されたというのがブームの正体な気がして。

小尾:僕が暮らす韮崎には、1960年代に建てられた古いビルが多く残っているんです。街並みは古いけれど、走っている車は最新だし、持っているのはスマホ、昔と今が入り混じっている。お店にある什器には「御贈答にたばこ」というコピーが書いてあるのですが、今では絶対に言えない、その危うさも魅力のひとつ。

西井:「たばこは心の日曜日」とか。

かねひさ:「今日も元気だたばこがうまい!」とか。西井さんの作品には、そうした昔の表現だったり、価値観だったり、質感だったり、ある種のフェチとクリティカルな目線での解釈があると感じていて。

西井:以前、記者をやっていた経験は大きいと思いますね。表現ひとつとっても、何か理由があって淘汰されてきたわけで、当事者を慮ってつくる必要があるというのは常々考えて...

この先の内容は...

ブレーン』 定期購読者限定です

ログインすると、定期購読しているメディアの

すべての記事が読み放題となります。

購読

1誌

あたり 約

3,000

記事が読み放題!