デザインやアートなどクリエイティブの世界でもAIの活用が進む現在、AIが生み出す「もの」の価値は一体どのように決まるのでしょうか。久しぶりにリアルでの開催となった今回、集まってくれたのは、ファッション、消費財、アートと異なる業界で活躍する3人。アパレルメーカー・ワールドのDXを推進するグループ会社・OpenFashionの代表を務め、昨年11月に設立した新会社・AuthenticAIを通じて、ファッション業界を中心に生成AIプラットフォーム「Maison AI」を提供している上田徹さん。日本パッケージデザイン協会理事長などを歴任、1300万人以上のデータからデザインを評価・生成する「CrepoパッケージデザインAI」を提供している、プラグの小川亮さん。東洋思想とデジタルデータの価値追求をテーマに、ビデオゲームとピクセルアート、VR、NFT、AIなどのデジタル表現を用いた現代美術作品を多数手がける、アーティストのたかくらかずきさん。「もの」を生み出すプロセスの変化やAIとの向き合い方、クリエイターの役割を考えます。

プロセスより先に結果を提示する
小川:プラグというデザイン会社を経営しています。私自身はマーケティングが専門で、デザインを評価するAIをつくったり、生成AIを使ったプラットフォームの開発をしたり、パッケージデザイン業界の中でAIの活用に積極的に取り組んでいます。
上田:総合ファッションアパレル企業・ワールドのDXを推進するグループ会社、OpenFashionで代表を務めています。昨年11月には、ファッション業界を中心にした生成AIプラットフォーム「Maison AI」の事業を分社化して、AuthenticAIというスタートアップを立ち上げました。
たかくら:東洋思想とデジタルデータの価値追求をテーマに現代美術作品を制作しています。東洋思想とデジタルアートの融合や、デジタル作品を複製芸術ではなくユニークピースとして捉える方法などを日々考えていて、ビジネス的な用途とは少し違ったやり方で、AIやNFT、xRを扱っています。
小川:昨年の6月まで日本パッケージデザイン協会の理事長を務めていたのですが、就任した当時は、AIの活用なんて、一体何を言っているんだろうという雰囲気でした。それがここ1年くらいでようやく、どうやって取り組んだらいいんだろうと、みんなが考え始めるようになって。
上田:僕らが生成AIに本格的に取り組み始めたのは2023年くらい。僕も東京ファッションデザイナー協議会でAI部会長を務めていますが、当時「絶対にAIは使わない!」と言っていたデザイナーさんが、先日話を聞いたらめちゃくちゃAIを活用していて、空気が変わってきたなという実感があります。
小川:意匠権や著作権の問題を気にするクライアントも多いので、AIでつくったデザインをそのまま使うことは少なくて、アイデアを膨らませるために活用するケースが多いですね。デザインの仕事って、30案つくっても実際に使われるのはひとつだけ。最初に進むのが東なのか西なのか、それを定める道しるべというか。
上田:ファッションの場合は、「ECサイトのモデル画像の顔だけを変える」といったプロモーション用途での利用のほか、商品企画にも使われ始めています。自社のブランドのアーカイブをAIに学習させて、未来の商品をデザインする。Maison AIにも実装を予定していますが、そのインパクトは大きいですね。僕らがターゲットにしているのは、日常的に身に着ける「マスアパレル」という領域ですが、LVMHがGoogleと組んでAI開発をしているように、わりとAIには寛容な業界なのかもしれません。
たかくら:パターン(型紙)はつくれるんですか?
上田:中国などではAIでパターンがつくれる会社も出始めていますが、基本的には外形的なビジュアルだけ。パターンのようにCADに近い領域は、まだ少し時間がかかると思います。
小川:パッケージも同じで、まだ見た目なんですよね。ただ、それを展開図にして入稿データをつくる作業も、数年の間にはできるようになるんじゃないかなと。
たかくら:アートの世界でも、AIをすごく面白いと感じる人もいるし、反対に今まで積み上げてきた技術が奪われるんじゃないかと心配している人もいます。生成AIが面白いのは、同じ要素で違うバリエーションの作品が無限に生成できるところ。プロセスより先に結果が来るのが、クリエイターとして不思議な感じがするんですよね。シュルレアリスムの理念である、人間以外の感覚による選択が可能になったというか。
小川:なるほど。生成AIが出始めの頃は、それこそ奇抜な絵が出てきましたが...