クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、書体デザイナーの高田裕美さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『おおきな木』
シェル・シルヴァスタイン(著)、本田錦一郎(訳)(篠崎書林)
私は「子どもの頃に出会い、成長し環境によって感じ方が変わるような、常に側に置いておきたい絵本をつくりたい」という夢があり、今でも持ち続けています。この本に出会ったのは、そんな夢を持ち始めた高校生の頃。当時は、村上春樹訳でなく、本田錦一郎訳の絵本でした。
日頃、見上げるような大きな木の存在に心を開放し会話するような子だったこともあり、主人公の男の子が木と仲良くなる様子が微笑ましく自分とも重なりました。ですが、読み進めるにつれ、自分の成長に合わせて木から次々と奪っていく男の子に腹立たしさを感じ、全てを奪われた木が「うれしかった」で終わる結末にショックを受けました。当時も色々考えさせられ、原作の英語版も手に入れて、何度も読み返しました。
その後、私は短大でデザインを学び、就職し一人暮らしを始め、結婚し夫との生活が始まり、後に息子が生まれ子育てが始まり……と自分の生活が変わっていく過程でいつも手元に置いていた絵本です。
そして、この本を読み返す度に違った感情が湧き上がり言葉にならない気持ちになり、心の整理がつかないまま自然と涙…