クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。今回は、映画評論・研究や食文化に関する著書を執筆されている三浦哲哉さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『マイルス・デイヴィス自伝』
マイルス・デイビス/クインシー・トループ(著)、中山康樹(訳)
(シンコーミュージック・エンタテイメント)
「まあ、聞いてくれ」から始まるジャズの帝王マイルス・デイビス自身の語りおろし。高校卒業後、一人暮らしを始めたばかりのころに読みましたが、たぶん人生で最高にホットな読書経験がこれです。破天荒で、聡明で、自由で、スピリチュアルで、クールで……という本物中の本物の人物の語る言葉に触れることの衝撃はあまりに強く、私は熱にうかされ、音楽の経験も才能もほぼゼロであったにもかかわらず、大学ジャズ研の門を叩き、やっぱりできない、とあきらめがつくまでの二年間、トランペットとドラムの練習をすることになりました。
結局、私は映画と食文化について研究・評論する方向に進むことになるので、マイルスの音楽は今していることと直接関係しないのですが、とはいえ、本当にクリエイティブなこととは何か、ということを考えるとき、この本の中のマイルスの言葉や態度をつねに参照している気がします。1940年代、若かりし頃のマイルスが、天才チャーリー・パーカーのいるニューヨークへ挑戦に出るくだりがとくに好きです。まったく新しい一つのジャンルの誕生しつつある日々の熱気を、内側から追体験しているかのような興奮を得ることができます …