たくさんの毛とその中に横たわる悲しげな表情の女性。この広告が東京メトロに掲出されるや、「パワーがあっていい」「ドキリとする」など、いろいろな反応が寄せられた、この広告の狙いとは?

メトロに掲出されたビジュアル。
ムダ毛の嫌な感じをリアルに描く
「どんな美人も、3日で生える。」というインパクトのあるコピーと女性の自由を奪うかのように黒い毛が林立するビジュアル。東京メトロの車内にはたくさんの脱毛に関する広告があるが、このような毛の嫌な感じが表現された広告は異色だ。
この広告を制作したのは、グラフィックを中心にWebや動画など幅広いクリエイティブを手がける東京アドデザイナースのメンバーだ。コピーライターの五味尚子さんは「繰り返しムダ毛に悩まされ続ける女性の途方に暮れるような心情をわかりやすく表現し、自分ごと化してもらえるようにしました。自由度の高いクリエイティブリレーだから、少し棘のあるクリエイティブに挑戦してみたいというのもありました。」と話す。
この広告の目標は、見た人にリゼクリニックの「医療脱毛」を選択してもらうこと。そのためには、医療脱毛のメリットを並べるよりも、ムダ毛があることへの嫌悪感によって医療脱毛の必要性を伝えることが効果的だと考え、毛をリアルに表現する手法を模索したという。
あまり直接的すぎると広告表現として不快に感じられてしまうが、逆にリアル感をなくすと毛の嫌な感じが伝わりにくくなる。そのバランスを考えながら、温度で消えるインクで毛を表現するアイデアや、毛に永遠の別れを切り出すというアイデア、脱毛してハッピーになるそまを風船で表現するアイデアなど、たくさんの案を制作した。そして、その中から、最終的に選ばれたのが今回の案だ。
アートディレクターの久保和仁さんは「ムダ毛の中に横たわる女性という非現実的な世界ですが、その中でリアリティーのある絵にしたいと考えていました。そこで、撮影は一発撮りで、なるべく加工せずに、ビジュアルをつくろうと考えました」と話す。
女性を囲む毛もCGを使わず、石膏で立体物を制作している。黒く塗った上からさらにマット系のニスを重ねることでキューティクル感を出し、本物の毛に近づけている。毛の先端の尖り具合も、毛の嫌な感じを伝えるためにこだわったという。モデルの表情も、どうしても生えてきてしまうムダ毛に対して、嫌気を感じ、うんざりしていることが伝わるアンニュイな表情になるように細かくディレクションした。

提案したビジュアル案の一部
スピード感を持って伝わる言葉
横たわる女性のビジュアルに加えて、印象的なのが「どんな美人も、3日で生える。」というコピーだ。絵では、毛の嫌な感じや毛に悩んでいる女性の心情を表現できても、リゼクリニックの医療脱毛ならではの魅力を伝えることは難しい。そこでコピーは、通常のムダ毛処理をしてもどんどん伸びる毛の事実をもとに制作された。人間の毛は毎日0.2~0.4ミリメートルずつ伸びるというデータがあり、そうするとおおよそ3日で約1mmとなり、目視できるのではないか。そんな通常のムダ毛の処理では、たった3日しか持たないことを印象的な言葉で表現している。
「交通広告は老若男女あらゆる人が見る媒体なので誰もにわかりやすいことも大切ですが、ただ事実をストレートに伝えるだけでは印象に残らない。『どんな美人も3日で飽きる』という誰もが知っているフレーズをもじることで、スピード感を持って多くの人に伝わるようなコピーにできたと思います」と五味さんは話す。
この広告は東京メトロに掲出されると「すごい説得力」「怖いビジュアルだ」などとSNS上では賛否両論、多くの反応が寄せられた。その反響について、久保さんは「毛の嫌な感じを伝えたいと考えていたこともあり、さまざまな反応があることは、ある意味狙い通りでした。一方で自分たちの制作した広告に対して、これだけ多くのさまざまな反応があることへの驚きもあり、複雑な気持ちでした。もしまたこのような機会があれば、アプローチは変えながらも、エッジの効いた表現に挑戦したいです」と語った。

東京アドデザイナース
1961年の創業以来、さまざまなジャンルにおける広告クリエイティブを提供。180名を超えるスタッフがそれぞれの強みを生かしながらグラフィックをベースに、Web、ムービー、PRイベントなど領域を広げ、総合広告制作会社にしかできない新しいクリエイティブを開拓している。
- 企画制作/東京アドデザイナース
- CD+AD/久保和仁
- CD+C/五味尚子
- AD+D/重竹祥乃
- C/土井麻南美
- D/酒井晶俊
- PR/渡辺美那
- P/福島典昭
- ST/新井智香子
- HM/田中里佳
- 美術/相波美根子
- レタッチ/佐藤加奈子(VITA INC.)