クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、タイプディレクターの鈴木功さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』
小塚昌彦(著)
(グラフィック社)
大学生のときに受けた講義で、楷書の文字がスクリーンに大きく映し出された。誰が書いたか分からないが、この上なく美しいものであることはすぐに分かった。それもそのはず、投影されたのは楷法の極則とうたわれた九成宮醴泉銘の拓本。そして講義をしていたのが本書の著者である。書体づくりを専門とする職業があることを私はこのとき初めて知った。
本書はさまざまな人との出会いを柱に書き進められているが、活字書体の技術変遷史として読むことで、書体デザインに対する理解はいっそう深まるはずだ。ひたすら文字を作り続けるデザイナー像とは異なる、好奇心旺盛な著者の一面がうかがい知れると同時に、技術の変化と共にある活字書体の作り手にとって、そうした好奇心こそが技術の波を越える重要な資質になっていることが分かる …