電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。このコーナーではさまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛けあわせることで、触って感じる新しいブックジャケットを提案していく。

4つの文庫デザイン×4色の黒
何かの記号のような幾何学模様が表紙に描かれた4つのブックジャケット。初見のはずだが、どこかで見たことが…?「このデザインは、皆さんに馴染みのある文庫本の表紙のフォーマットをモチーフにしています」と、電通 アートディレクターの小野恵央さんは話す。
「ブックジャケットには、防汚とプライバシー保護、大きく2つの機能があります。後者の、何の本を読んでいるかわからないよう表紙を隠す行為を、今回のデザインのテーマにしました。各社のカバーを外すと出てくる表紙フォーマットの、タイトルや作者名、出版社名部分をピンポイントで隠すことで、『隠しながら読んでいる』ことを公然にするブックジャケットになっています」。
今回使った竹尾のファインペーパー「ルミネッセンス」は"究極の白い紙"を目指して開発された。この白を引き立たせるためにあえて黒のみを使ったという。「これまで作られたブックジャケットを見せていただいた際に、白い紙を使ったものだけでも、金の箔押し、エンボス加工、白色印刷、と既に色々な試みがありました。今回は趣向を変え、大胆に紙の白さが引き立つデザインを考えようと思いました」。
ただし、黒も実は微細な差で4パターンあるのが、この企画のもう1つのポイント。「打ち合わせで、このブックジャケットは印刷見本でもあるので、黒にバリエーションを出してはどうかと話が出たんです。そこで、UV用の特色黒(コンクスミ)の1度刷り、2度刷り、さらにそれぞれにCMYをさらに掛け合わせた4種類をパーツごとに刷り分けてもらいました。通常"濃い黒"と思われている特色黒を上回る濃度の黒を、印刷機能上の限界に挑戦して実現しました。タイトルに当たる部分を一番濃い黒で刷っているので、他の部分と比べてみてください」。

「GRID AIR HOCKEY」(プロダクト)

「TAKE PHYSICAL CONDITIONING GYM」ロゴ、スペース

渋谷区「ちがいをちからに変える街」ポスター
今月使った紙:ルミネッセンス
「究極の白」を追求した非塗工の高級印刷用紙。きわめて高い白色度を持ち、密度が高くスムースな肌合いです。気品ある輝く白「マキシマムホワイト」と、清楚な自然の白「ニュートラルホワイト」の2色。

小野恵央(おの・よしなか)
1982年生まれ。2007年武蔵野美術大学卒業、電通入社。クリエーティブ局所属。ブランディング、グラフィック、スペース、プロダクトとデザイン領域は多岐にわたる。主な受賞に東京ADC賞、ACC賞、グッドデザイン賞、キッズデザイン賞、Red Dot Award、OneShowDesign、クリオ賞、D&AD、カンヌライオンズ、NewYorkADC、SpikesAsia、アドフェストほか。
編集協力/竹尾