デンマークのビジネスデザインスクール「KAOSPILOT」には、独自の「ダブルダイヤモンドイノベーションモデル」というチーム発想メソッドがある。どんな条件下であってもよい発想を導けるようにと開発されたメソッドやスキル、そのためのマインドについて、KAOSPILOTに留学経験を持つ大本綾さんに解説してもらった。

KAOSPILOTの打ち合わせの様子
不確実で混沌とした状況下の
クリエイティブリーダー人材育成
クリエイティブなアイデアは、カオスの中で生まれる。打ち合わせの限られた時間で相手やテーマを問わず、安定して質の高い結果を出すためには、カオスな状況でもクリエイティブリーダーとしてのスキルとツール、マインドセットとアティチュード(態度)が必要となる。
デンマーク第二の都市、オーフスに位置するビジネスデザインスクール、KAOSPILOT(カオスパイロット)は、1991年に設立された。その背景には、ベルリンの壁崩壊により若年失業者が増加したことがあるという。誰もが予測していないことが起こりうる“カオス”な中でも、ポジティブな社会的変革を起こす人材を育てるために生まれたのがこのスクールだ。1学年36~39名程度で3年制の小さな学校だが、これまで600人以上の卒業生を輩出し、約40%が起業し世界で活躍している。
筆者は、2012年に初の日本人留学生としてカオスパイロットに受け入れられ、昨年卒業した。カオスパイロットで印象的だったのは、何よりその教育のあり方と背景にある哲学だ。カオスな状況を意図的に教育でデザインすることで、学生の成長を促す。それは課題の与え方にも反映される。
例えば3カ月間、言語も文化も異なる国で多種多様なメンバーと協働しながら、住んだこともない地域に何とか貢献する課題。雪が積もる冬の森で、ノルウェーの軍隊のトレーニング法によるサバイバル能力を問う課題。これらのカオスな状況でも、最後まであきらめずに、チームで乗り越えて創造的な結果を生み出すことを頭と体と心で徹底的に、覚えさせるのだ。
残業する習慣のない国で生まれた
短く本質的な打ち合わせ
そんなカオスパイロットの打ち合わせは、短く本質的だ。というのも、デンマークの法律で定められた労働時間は37時間で、残業する習慣がない。絶えず限られた時間で成果を出すことが求められる。カオスパイロットでは生産性と創造性を促すために多種多様なツールを使用する。その中で今回は、「ダブルダイヤモンドイノベーションモデル」と呼ばれるものを紹介したい。
これは、2005年に英国デザイン協議会が開発した「ダブルダイヤモンドモデル」という発散と収束のモデルがベースになっている。そこにカオスパイロットがアレンジを加え体系化した。このダブルダイヤモンドイノベーションモデルは、7段階で構成され、個人だけではなく、他人を巻き込むことを前提にしている点が特徴だ。
試行錯誤型で、納得解を見つける合意形成のプロセスなので ...