
01 HBO-GoのCM「Unconditional Love(無条件の愛)」。
居間で母と娘がHBOの番組を見ていると、レズビアンカップルのラブシーンが始まってしまい、気まずい時間が流れる。広告会社はSS+K。
米国の広告業界と聞くと、まず、Y&R、JWT、オグルヴィ&メイザー、ワイデン+ケネディ、BBDO、レオ・バーネット、マッキャン・エリクソンなどを思い浮かべる人が多いだろう。そして、これらの有名な広告会社が、米国のマーケティング活動を率い、作り上げていると思うだろう。
だが、米国には8000あまりの広告会社があり、その95%は従業員100人以下の小さい広告会社からなっている。しかも、90%は、従業員5人以下の小さな小さな広告会社だ。つまり、こういった中小の広告会社が、縁の下の力持ちとして、米国の広告業界を支えているのだ。
経済的な面だけではない。ここ数年、広告の要であるクリエイティビティの面でも、これらの中小広告会社の活動が目立つ。アドエイジ誌もその事実を認め、「Small Agency Awards(最優秀中小広告会社賞)」を設け、業界に功績を残した広告会社を毎年表彰している。
今回は、ここで受賞した優秀な中小広告会社の中から、2014年~15年にかけて広告作品やキャンペーンで話題になった3社を紹介する。まず、広告のお膝元ニューヨークに本拠を持つ「SS+K」から始めよう。
古くて新しい「SS+K」
HBO-Goのキャンペーンで、2015年度のSmall Agency Awards を受賞したSS+Kは、ニューヨークのダウンタウンに瀟洒なオフイスを構える従業員60人あまりの広告会社である。だが、マディソン・アベニューの古参にはよく知られている存在である。
1993年、政治広告コンサルタントだった3人のアドマンによって創設され、それ以来、戦略に強い広告会社として存在してきた。が、2年ほど前にマザー、オグルヴィ、Y&Rなどで働いた経験を持つクリエイティブストラテジスト、ボビー・ハーシュフェルドをCCOに迎えて以来、いくつかのヒット作品を生んでいる。その一つがHBO-Goのキャンペーンである。
HBO-Goは、HBO系の番組をスマホ、ゲーム・コンソール、タブレットなど、いろいろなデジタルデバイスで見られるサービスである。キャンペーンはミレニュアル世代(17才から30才の団塊)を狙ったもので、HBOの番組に多い性的描写シーンなどを、間違えてもパパやママと見るべきではない、と強調したユーモラスなもの。
例えば「Unconditional Love(無条件の愛)」(01)はこんなストーリーだ。大学生の娘が居間でHBOの番組『ガールズ』を見ている。テレビの中では2人のレズビアンが熱烈なキスをしているシーンが映っている。娘の横に座っていた母親がそのシーンを見て言う。「いいのよ、あなたがレズでも。私の愛は変わらないわ」。「なに言ってんのよ。映画を見てるだけよ。私、問題ないのよ」。「隠さなくてもいいのよ。私の愛は変わらないから。娘がレズなんて、ちょっとクールじゃない?」。うんざりする娘。すかさず、タグラインが「HBO-Goが必要な時ではないでしょうか。HBOの素晴らしい番組が、すべてのデジタルデバイスで見られます。両親から遠い、遠いところでね」と訴える。
続けて「Happily Married(幸せな結婚)」(02)。パパ、ママ、娘、息子が居間でHBOの番組を見ている。喧嘩している夫婦のシーン。「わかったわよ。離婚しましょう。あんたのような男と一緒にはいられないわ!」と番組の中の妻。母親がとっさにリモコンでテレビを消し、2人の子どもに言う。「あなたたち、心配しないでね。私たち、決して離婚なんかしないから。27年間、とても幸せな結婚生活だったわ。離婚なんてとんでもない」。娘、「テレビつけてよ」。「万が一、離婚するようなことになっても、あなたたち2人のせいにはしないわ。安心してね」と母親。頷く父親。「ママ、ボタン押してくれない?」といらだつ息子。同じタグラインが出る。
ミレニアルとベビーブーマーの親たちとのギャップが鮮明に描かれているこのCMは、「インサイト(洞察力)に富んでいる」と ...