SNSや動画プラットフォームが情報流通の主軸となるなか、広告が社会や民主主義に与える影響が見過ごせなくなっている。信頼性ある情報空間の維持において、広告主の判断と行動がいかに重要であるか。構造の問題などをはじめとする、現在のデジタル空間における広告の課題について、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所准教授の水谷瑛嗣郎氏が解説する。
広告はデモクラシーに欠かせない
情報の信頼性を支えてきた存在
広告は日本のデモクラシー(民主政治)を支えてきました。こう言うと大げさに聞こえるでしょうか。確かに広告は、広告主の「経営戦略・事業戦略の一環として、自らの価値提案をすることで生活者に便益をもたらす」ことを目的とし、広告主がさまざまな事業者と協力しながら、「必要な費用を投じて、有形無形の要素から成るメッセージを作り上げるとともに、生活者に向けてメディア上で発信し、その意識や行動に働きかける」ものです(日本アドバタイザーズ協会「広告の定義」2025年4月23日)。
一見すると、広告とデモクラシーの間にはさほど、つながりは見えません。しかしながら、デモクラシーは、人々の間の自由かつ多様な情報流通により形成される世論を基盤としています。
こうした世論形成の主軸は、これまで新聞、テレビ、ラジオ、雑誌といった「レガシーメディア」が担っていましたが、これら4マス媒体を商業的に支えていたのは、間違いなく「広告」でした。古くはアメリカの『ニューヨーク・サン(The Sun)』が広告を掲載し、他紙よりも安...