第一線のマーケター・クリエイターが明かす、キャリアアップの奥義。今回は、湖池屋で執行役員兼マーケティング本部 副本部長 マーケティング部 部長を務める新井美彩さんにこれまでのキャリアについて伺いました。良い転職は、良質な情報を入手することから始まります。「こんなはずではなかったのに…」とならないための、転職情報をお届けします!
Q.どのような学生時代を過ごしましたか?
大学時代はラクロス部の活動と、新聞社の編集局でのバイトに明け暮れる日々を過ごしました。バイトは元々やっていた先輩が後継者を探しており、「ぜひやらせてください」と立候補したんです。当時は新聞記者になるのが夢でした。
ラクロスの朝練後に授業を受け、夕方6時から夜中の2時まで朝刊の作業。終わったらみんなで飲みに行ってまた朝練、という生活。チームで紙面をゼロからつくる作業は本当に楽しかったですね。結局、新聞記者にはなりませんでしたが、私の中のモノづくりへの扉は、間違いなく、このときに開かれたと思います。
卒業後にキリンビバレッジに入社したのは、キリンビールのグループ企業だったからです。お酒が好きな私は学生時代も、お金が貯まると海外旅行に出かけては、その国のビールを飲むのを楽しみにしていました。
「ビールって気候や文化、食生活に合わせて味がつくられる、ロマンのある飲み物だな」と思っていたんです。キリンビバレッジは清涼飲料水を扱う会社ですが、人事交流とかで、ビールづくりができるかも?なんて淡い期待もあり入社を決めました(笑)。
Q.キリンビバレッジでの仕事を教えてください。
最初の仕事は営業事務で、卸売業者から届く注文の配送手配や、外勤のサポートが主な仕事でした。とはいえ、モノづくりに惹かれて入社したので、いずれはマーケティングをやりたいと思っていました。そのためにはお金のもうけ方を勉強する必要があると思い、上司に「外勤に出たい」と希望を伝えたんです。
しかし断られてしまい「だったら丸腰でもマーケに行ってやる!」と、自分の志望を会社に伝えるキャリア申告書へ、マーケティング職に就いたらやりたいことを書くことに。B4サイズの大きな用紙でしたが、枠からはみ出す勢いでめいっぱい書いて提出したんです。そしてその熱意が伝わったのか、入社3年目の春、当時は商品企画部という名称だったマーケティング部門へ異動になりました。
Q.念願かなっての異動、マーケティングの仕事はどうでしたか?
最初は専門用語も何もわからず「GIって何ですか?」、「グルインのことだよ」、「グルインって何ですか?」、みたいな状態で。そんな私を育ててくれたのが、缶コーヒー「FIRE」などの生みの親で、伝説のマーケターと言われる佐藤章です。佐藤の教育方針は徹底したOJT。のちの「生茶」になる日本茶開発プロジェクトを任され、広告会社との打ち合わせ、CM撮影、グルイン、どこでも連れていってくれました。
あるとき、佐藤から渡された仕事の中に、当時人気絶頂だったSMAPと、アートディレクター佐藤可士和さんとのプロジェクトがありました。可士和さんがデザインしたCDジャケット『Drink ! Smap !』に描かれている缶ドリンクを商品化したいという相談に、佐藤が快諾。可士和さんが私を担当に指名してくれたんです。このドリンクは大きな話題を呼び、特別仕様の自販機には大行列ができました。広告会社を介さないプロジェクトで進行も大変でしたが、それ以来、次々と仕事がもらえるようになって。丸腰で飛び込んだ私が、マーケターとしてのいろはを一から学ばせていただけたのは、佐藤のOJTのおかげです。
Q.キリンビバレッジを辞めたのはなぜですか?
しばらく育児に専念することにしたからです。子どもが小学校に上がり、そろそろ再就職を、と考えていたとき、佐藤から電話がありました。
湖池屋の社長に就任した佐藤から、「今度は一緒にお菓子をやろうぜ」と言われたんです。マーケティング職の多忙ぶりは理解していたため最初は断りましたが、諦めずにもう一度声を掛けてくださって。父に相談したら、「何を渋っているんだ」と叱られました。「佐藤さんのチームで働きたい人は大勢いる。その貴重な席をひとつ空けてくれているんだぞ」と言われて。昔の恩返しをする機会を頂いたと思い、入社を決意しました。とはいえ、「恩返しだから」と佐藤の意見に何でも同調するのではなく、他の社員が言いにくいことも言うような、常に本音で向き合う存在になると決めました。
佐藤の方針は今も変わらず徹底したOJT。人は打席に立つ数で成長するという考えです。私も入社半年後には新規開発がメインになり、大豆たんぱく質を使用した「罪なきからあげ」の開発や、ポテトチップス「じゃがいも心地(現ピュアポテト)」のリニューアル、スナックの定義をおやつから軽食へと拡張させる新市場創造型商品「ランチパイ」の開発と、挑戦を重ねてきました。
組織マネジメントも担当する現在の私の使命は、年齢や役職関係なく、喧々諤々、メンバーが本音をぶつけ合える環境をつくること。菓子業界を取り巻く環境や価値観の変化を恐れず、誰も見たことがない景色をみんなで見たい。湖池屋のモノづくりに関わるみんなが、誇りと幸せを感じられるよう、残りのキャリアを懸けて取り組むつもりです。

株式会社湖池屋
執行役員兼
マーケティング本部 副本部長 マーケティング部 部長
新井美彩 氏
1997年、キリンビバレッジに新卒入社。販売推進部で営業事務を経験したのち、1999年に念願かなって商品企画部に配属。「生茶」や「Drink! Smap!」など話題のプロジェクトに多数従事。出産、育児のための離職を経て2017年に湖池屋入社。2022年よりマーケティング部 部長、2025年より現職。スナック菓子の概念を変える新たな挑戦を続け、マーケティング部隊の組織・風土改革にも取り組む。

聞き手
株式会社マスメディアン
取締役
国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名以上の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT 企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
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