共に業界におけるトップブランドの一つであるアサヒビールの「アサヒスーパードライ」とP&Gの「パンテーン」。それぞれのブランドでは、生活者にとっての価値をどのように捉え、商品の付加価値として提供しているのか。また、トップブランドならではのマーケティングの課題とは何か。それぞれの担当者に聞いた。

(左から)アサヒビールマーケティング第一部 松葉晴彦氏、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン アソシエイトディレクター ブランドオペレーションズ 山形光晴氏
一人ひとりのインサイトを深掘りしてニーズを探る
――現在の市場環境は10年前と比べ、どのように変化していますか。
松葉▶ 10年前は新ジャンルという新たなカテゴリーが加わった頃です。ブランド数が増え、現在はさらに多種多様な商品が発売されています。ビール業界では時代の中でさまざまな流行の周期があり、各メーカーがこぞって限定商品を製造したり、苦みや濃さなどにこだわった商品を発売したり、そしてまた定番の銘柄に回帰する…そうしたことが繰り返されています。加えて、そのサイクルはどんどん短くなっています。その背景にあるのは、酒類の販路の拡大です。1989年から開始された酒類小売業免許の規制緩和が行われるまで、ビールの販売は酒屋さんが中心でした。それが大型のスーパーやコンビニエンスストアなどへと販売チャネルが拡大したことで、POSデータをもとに、各社が厳しい競争を強いられています。長期的な観点で、ブランドを育てる環境が難しくなっていると感じています。
山形▶ ヘアケア市場も同様です。次々に新しい商品が登場し、10年前に比べると、商品の種類が格段に増えました。それに伴い、どんな商品を選べば良いのか分からないという消費者も増えているように感じます。それでも、ヘアケア商品のランキングのトップ10を見ると、入れ替わりがありつつも、いくつかの商品は毎回必ずランクインしています。一方で、時代や流行によって、髪が受けるダメージの質も変わっており、10年前と現在とでは、シャンプーに求められていることも変化しています。そのため、現在はどんなことが消費者に求められているかを日々探ろうとしています。アサヒビールさんでは消費者のニーズを知るために、どのような取り組みをされていますか。
松葉▶ 最近は、1対1の対話方式で行うデプスインタビューが多いですね。もちろん、数百人規模を対象者にアンケートを行う定量調査や数人に同時に話を聞くグループインタビューなども実施していますが、本音や潜在的なニーズを引き出すには、1対1でとことん深堀りしていく手法の方が向いていると考えています。
山形▶ 当社も同様です。定量的な調査もしつつ、1対1で長時間話を聞き、その中で本音を見つけ出すことを意識しています。同時に、話した内容だけでなく、なぜそうした発言に至るのかという背景も考慮した上で、インタビューを行っています。パンテーンを使用されている方のお宅に伺い、お風呂場でパンテーンがどのように置かれているのかを見せてもらうこともあります。
松葉▶ 我々の場合は、スーパードライを飲んでいるときの実際の気持ちと、どういった飲用シーンを望んでいるのかの2点を中心に聞いています。例えば、定量的に味について調査をすると「のどごし」という1つの項目における捉えられ方が …