広告は、時代に応じて科学を取り入れてきた。脳科学もそのひとつだ。黎明期からデジタルマーケティングと歩み続けてきた電通の秋山隆平さんと、ニューロインタフェースの開発にも携わる慶應義塾大学の満倉靖恵准教授が脳科学とコミュニケーションの進む先を語る。

秋山隆平氏(あきやま・りゅうへい)(左)、満倉靖恵氏(みつくら・やすえ)(右)
広告が取り入れた脳科学
秋山隆平▶ 電通の部下の細金正隆くんが制作した、脳波を感知してネコ耳が動くカチューシャ「necomimi」がお会いするきっかけになりましたね。失礼ながら学者の方でああいったデバイスを面白がるのは珍しいと思いました。
満倉靖恵▶ 「これは新しい表現だ」と思ったんです。私たち研究者は、アウトプットをパーセンテージで示したり、色で表現したりというのには慣れているのですが、「耳を動かして脳波、人の感情を表現するのか」と驚きました。「necomimi」をプレゼンテーションした細金さんや神谷俊隆さんとお話しして「なんて脳に対する情熱を持っているのか」と感心して。また、その後秋山さんとお会いしたのですが、すごく勉強なさっていて、共通の話で盛り上がれたのも嬉しかったですね。

脳波を感知してネコ耳が動くカチューシャ「necomimi」。秋山さんと満倉さんをつなぐきっかけになった。企画開発は電通、商品化はニューロスカイ社。
秋山▶ 長らくデジタルマーケティングに携わってきましたが、「その次はニューロ・サイエンス(脳科学)マーケティング」だと考えていたので、自分なりにいろいろと調べていたんです。こちらも、お会いできて刺激的でした。
満倉▶ あまり脳科学を何かに使ってみようという方はいらっしゃらないんですよ。お互いに接点のなさそうな分野だと思っていましたが、「考えていることが一緒だ」と思いました。
秋山▶ 「広告は科学とアートの交わるところにあるもの」と言われていますから、サイエンスとは相性がいい。マーケティングは、最先端の科学を積極的に取り入れてきました。これまで取り入れてきた主な科学は、心理学であり、統計学でした。その最先端が脳科学だと思いますね。
満倉▶ 脳科学は、心理学よりも理論寄りで、統計学よりも着実に物事を見ていこうという姿勢があります。脳を理論的に解明していくのが目的です。