コミュニケーションが生まれる空間 Vol.3 長岡 勉氏

Creator File

  • センターラインアソシエイツ 松井るみ氏
  • トランジットジェネラルオフィス 岡田光氏
  • BOOK APART運営者 三田修平氏
  • 極地建築家 村上祐資氏
  • ツクルバ 中村真広氏/村上浩輝氏
  • 木村 英智氏
  • 豊嶋 秀樹氏
  • 木村 英智氏
  • SOLSO代表 齊藤 太一氏
  • 構造エンジニア 金田 充弘氏
  • スペースコンポーザー 谷川 じゅんじ氏
  • トラフ建築設計事務所
バックナンバー
  • 中目黒マドレーヌ店主 田中 真治氏
  • フラワーアーティスト CHAJIN氏
  • AuthaGraph代表 鳴川 肇氏
  • 昼寝城 店主 寒川 一氏
  • ランドスケーププロダクツ代表 中原 慎一郎氏
  • スタンダードトレード代表 渡邊 謙一郎氏
  • ブック・コーディネイター 内沼 晋太郎氏
  • 建築家 谷尻 誠氏
  • 茶人 木村 宗慎氏
  • 建築照明デザイナー 矢野 大輔氏
  • 音響演出家 高橋 琢哉氏
  • 一級建築士 中村 拓志氏
  • 建築家 加藤 匡毅氏
  • デザインチーム KEIKO+MANABU
  • 建築設計プロデューサー 小野 啓司氏
  • インテリア・エクステリアデザイナー 佐野 岳士氏
  • 建築家 木下 昌大氏
  • 建築家 猪熊 純氏
  • 大学教授 手塚 貴晴氏
  • 建築家 二俣 公一氏
  • 建築家 梅村 典孝氏
  • 建築家 長岡 勉氏
  • 建築家 平田 晃久氏
  • 建築家 迫 慶一郎氏
長岡 勉氏 長岡 勉氏

(ながおか・べん)

1970年生まれ
慶応大学SFC政策メディア研究科修了。山下設計で活動後、pointを設立。建築、インテリア、家具までを連続した環境として捉えて、デザイン活動を行っている。設計活動と平行してco-labの運営を行う。

Presented by YKKap

「モノの居場所」を考える

 居心地のよい場所には人が集まり、そこにはコミュニケーションが生まれます。モノについても同じような場所を考えられたらと思います。モノには人格はありませんが、モノにとって居心地のよさそうな場所をつくることができたら、それがキッカケになって、自然と人が集まり、コミュニケーションが生まれるのではないでしょうか? コミュニケーションを考える際、「人と人」だけでなく「人とモノ」の関係性についても考えたいと思っています。

 どのような場所にも目的に応じた特性があります。店舗であれば、その店や商品のメッセージを強く発信し、店内を巡りながら、様々な商品を見てもらうことが、一つの目的になるでしょう。そして来店者が無意識のうちに店内全体を楽しく散策でき、商品と自然に触れるよう促すことができたら、空間のデザインはその目的を果たせた事になります。

 昨年、アパレルブランド「DIESEL」の期間限定の店舗「DIESEL DENIM GALLERY青山」の空間デザインをしました。「Labyrinth of Woods」(=森の迷宮)をコンセプトにしたもので、店内に木々に見立てたベニヤ素材の柱を設け、木立の中を散策するような感覚で、自然と店鋪の奥へといざなうようなデザインをしました。この柱は上部でアーチ型に連結されていて、そのことが空間の高さを強調して奥行きをつくります。

 また柱を陳列棚と一体化させることで、空間全体が商品をディスプレイする森のようになっています。具体的には柱の形が広がっていったり、枝分かれしたところに、商品をディスプレイしています。形として特徴のある場所にモノの居場所をつくり、それが、キッカケとなって、モノ(商品)と人のコミュニケーションが生まれるような仕組みを空間全体でつくっています。

 店鋪のデザインでは、空間の中で、モノの居場所が占めている割合が大きいです。その割合は、空間の中で人が過ごす時間の長さに関係しています。人が長い時間を過ごす空間をデザインする時には、モノの居場所と人の居場所の割合も変わります。また、人が長く過ごす空間であるほど、人の使い方が、空間を育てると思います。空間の使い方を触発することで、人、モノ、人のコミュニケーションが生まれるキッカケをつくることは重要です。

 オフィスのデザインにもそういった要素があると思います。コクヨグループにおける製品やソリューションの先端開発、ブランディング、クリエイティブな人材の育成等の活動を行うクリエイティブセンター「KREI」の設計をしました。様々な使い方を誘発するために、メーンフロアの中心には、約3メートル四方の巨大な箱があります。箱を中心に囲うように、ロの字型をした大きな1ルームのワークスペースができあがります。箱の外側はコルクと鉄板でできているので、全ての壁をピンナップボードとして使うことができます。

 また全ての壁は扉のように自由に開閉できるので、開くと全長6メートルの大きな壁がフロア全体を二分します。フロアの片側がワークスペース、もう片側がギャラリースペース、真ん中の箱の中がミーティングルームとして使えます。壁は一面ホワイトボードになっていて、アイデアを書き連ねることができます。この箱は、空間を併せ持った立体的な巨大なノートといえるかもしれません。こうした仕掛けが、KREIでの様々な活動や取り組みを誘発するキッカケとなればと考えています。

 当たり前のことですが、人とモノの関係を考えるときに、自分ならどう使うだろうか、という視点は大事にしています。例えば棚なら、一度設計したモノに対して、それを使うときの可能性を想像してみる。「こういうふうにも使えるかもしれない」「こうしたら便利になるかもしれない」その時に棚単体の機能だけでなく、空間とモノと人とがつながったときのポテンシャルを考えます。それらがどのように有機的につながっていくのか? その可能性を、どこまで拾い上げられるかが、コミュニケーションを誘発する居心地の良い空間をつくる上では重要だと考えています。

「ブレーン」2011年7月号より

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「DIESEL DENIM GALLERY青山」。店内をベニヤの柱で区切り、空間を切り分けることで回遊を促した。

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森の木をイメージしたベニヤ製の柱には、デニムのようにステッチを入れている。このステッチ部分は繰り抜かれているので、商品の服を掛けることもできる。

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柱の根元は、商品の陳列棚と連結していて、立ち止まって商品を見るきっかけになっている。

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コクヨのクリエイティブセンター「KREI」。フロアの真ん中に位置するのは、ミーティングルーム。

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ミーティングルームの四方の壁は、自由に動かすことができる。壁そのものはホワイトボードになっている。

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小学校の図書室をリノベーション。つい、もぐりこみたくなるような有機的なデザインの棚は、腰掛けたり、資料の展示スペースになったり。

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