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三井化学×ブレーン CREATIVE RELAY

形状記憶シートを生かした「初めから割れている」壺

最初に手にしたとき、お餅みたいな独特の感触が面白いと思いました。この柔軟性を生かしたプロダクトを試行錯誤する中で、伸びない素材と伸びる素材を組み合わせると、より伸びが強調されて感じることに気づいたんです。最初は厚紙や革をこのシートに平面的に貼っていたのですが、それを円錐形の立体にしてみたら、伸ばした状態からきれいに元の形へと戻った。その動きに面白さを感じました。そこから、「元に戻る」という特徴をプロダクトの意味合いで使えないかと考え、初めからバラバラに割れている形状の壺をつくることに決めました。
例えば金継ぎは、漆と金で継なぐことによって古いもの以上に価値が生まれる時がある。この壺も割れている箇所に形状記憶シートを仕込むことで、壺の入り口より大きいものを中に封じ込めることができる。広がって元に戻るという新しい機能がプラスされることで、割れたら壊れるという一般的な物理法則に反した新しい価値をつくることができるのではないかと。そこで、形状記憶シートの厚みや色、割れ目の形状を変えて、伸びを試しました。最終的には形状記憶シートと樹脂でつくった壺の接着面を減らして動かせる部分を多くし、割れ目をシンプルにすることで、きれいに伸びて、戻るようになりました。
従来は木なら木の、鉄なら鉄の素材の特性に合わせた設計作法を意識しながらデザインしますが、こういう新しい素材は、どう処理するのがいいのかから考える。ルールがまだないので、これまでとは違う発想につながるのではないかと思いました。また、そうするとプロダクトの前提条件も覆されます。多くの人は当たり前のように完成したプロダクトを買うわけですが、もしかすると完成してなくてもいい。初めから壊れた状態の新商品があってもいいんじゃないか...。こうした可能性も、今回のプロジェクトを進める中で考えさせられました。

  • 形状記憶シートを使って伸びを試していたときのプロトタイプ
  • THINK OF THINGSオリジナル商品「ANYBOX」
  • HELLO CHAIR
  • KOKUYO DESIGN AWARD2016 のアートディレクション

今回使った素材について

新開発の形状記憶シートは、サンプル供試を開始して以来、それに触れた多くの人達を虜にしており、「初めて触った感触」、「ずっと握っていたくなる」、「ゆっくり元に戻る動きがユニーク」とこれまでにない触感の素材として評価頂いています。
同開発品は、シート形態であり、伸ばしたり・丸めたり・クシャクシャにしても戻っていく「形状記憶性」を有する新素材です。温度依存性が大きく「冷やすと固くなりますが、常温~50℃付近で柔軟性を増す特性」を持っているため、独特なしなやかさと柔軟性が得られます。そのため、人体に触れている部分は柔らかく、触れていない部分は若干硬いので、サポートされたような感覚が生まれます。 人が触れることで変化するため、ヘルスケア、医療、介護、スポーツ、各種シート、クッション、ベッド等の使用者にフィットするような用途で、世界に一つだけの製品開発に貢献できる素材として期待されています。

形状記憶シートは持ち上げると自重で変形するほどしなやかで、伸縮性もあり、圧力で変形し、一定時間その形状を保って、ゆっくり元に戻ります。また、発泡させていますが、クローズセルのため水を透過・吸収しません。
一般的な天然素材(革、麻など)や人工素材(ナイロン、ポリエステル、ポリウレタンなど)で作られた生地やシートと貼り合わせや縫い合わせも可能であり、組合せしたサンプルは、「しなやかな伸び」や「柔軟性」の付加もさることながら、「独特の戻り」という新たな付加価値も提供できます。また、熱(100℃付近)をかけて形を賦形することで、形を記憶させることも可能です。
そのため、色々な加工(縫い合わせ、貼り合せ、真空成型、印刷成型など)ができ、付加価値を提供する機能性の新素材です。

COMMENT

三井化学東セロ
産業用フィルム・
シート事業部
開発室

今回、コクヨの佐々木さんに形状記憶シートの「形状記憶性」と温度により変化する「柔軟性」に着目して頂き、硬い素材と柔らかい素材を組合わせて「元に戻る壺」のデザインを提案頂きましたが、硬い物を拡げて使ってみようというアイデアは驚きでした。壊れた陶器を治すことで新たな価値を生む金継ぎの技術を参考に、手で広げると壺が開き、また自然と金継ぎされた元の状態に戻っていきます。割れた状態と金継ぎされた状態を行き来するプロダクトの表現は、現在と未来を行き来する時間軸の表現となっています。今回、このコンセプトを実現するため、貼合方法や壺の形状について試行錯誤しプロダクトが出来上がりましたが、形が戻っていく瞬間はまさに「形状記憶性」が表現されており、感動でした。
今回の佐々木さんとのプロジェクトにより、形状記憶シートの持つ素材の魅力がより多くの人のインスピレーションとなり、また新たな価値へと繋がれば嬉しい限りです。

ささき・たく / コクヨ クリエイティブセンター。
1985年東京生まれ。2008年多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業後、コクヨ入社。KOKUYODESIGNAWARD2005優秀賞、同2014社内特別賞受賞。2017年5月末千駄ヶ谷にオープンしたコクヨの直営店「THINK OF THINGS」にて、オリジナル商品のディレクション及びデザインを担当。休日は大学の同級生と共同のアトリエ「B6studio」を構え活動中。
ささき・たく+ / コクヨ クリエイティブセンター。
  • 動画/杉能信介
  • 音楽/安永哲郎
  • 写真/大志摩徹