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三井化学×ブレーン CREATIVE RELAY

朝露のように 滴がゆらめきながら 光をとらえる照明

僕たちwe+には自然の現象を抽出し、それを作品へと昇華させていく、そういう手法で制作した作品が多くあります。最初にさまざまな素材を見せていただいたときも、そのことを意識して見ていました。その中で出会ったのが、ノストラ®。以前も水を使った作品を制作しているのですが、水はコントロールしにくい素材。でも、このノストラ®の特性を活かせば、水をコントロールすることができ、これまでにはない水の形を見せることができるのではないか、そんな期待がありました。
ノストラ®の最大の特性は、水がなじむこと。つまり水の存在感を消してしまうところに、作品につながるヒントがあるように思いながらも、なかなか形が見出せませんでした。ノストラ®を塗ったフィルムを切ったものに水を流しながら、どういう形になるのか、3か月近く実験を繰り返しました。あるときそのフィルムをひっくり返してみたら、水が落ちずにくっついていた!偶然の発見だったのですが、この現象に面白さを感じました。この現象ってなんだろう。なぜ僕らをこんなに引き付けるんだろうと考えていたら、それが朝露と同じ現象であることに気づきました。葉の先に水がたまったときの美しさ、そして落ちそうで落ちない、あの緊張感。この現象を形にしようと決めました。
苦心したのは、水滴がいかに美しく見えるか。水滴の垂れ方が大きすぎても小さすぎてもいけない。検証した結果、20mmが最適で、そのサイズで同心円状にノストラ®を塗布しました。最終的に「朝露のように滴がゆらめきながら光をとらえる照明」にしたいと考えていたので、プレートを吊るワイヤーと水滴のバランスなど、プロダクトとしての見え方や構造も検証しました。僕らのものづくりのスタンスは装飾性を排除し、自然の現象に委ねること。ノストラ®本来の使用方法からすればありえない展開かもしれませんが、この作品ではそのことを実現し、水という素材で従来とは違う視点を提示できたのではないかと思います。

  • 「cuddle」のメイキングの様子
  • Disguise photo / Masayuki Hayashi
  • Drought photo / Masayuki Hayashi
  • Drift

今回使った素材について

ノストラ®は三井化学独自のコンセプトと分子設計技術により開発した、超親水性とハードコート性を合わせ持つ、UV(紫外線)硬化型コート材です。
ノストラ®をコーティングすることで、抜群の防汚性、防曇性、耐擦傷性、帯電防止性、速乾性を付与することができます。
従来型の親水コート材、例えば一般的な曇り止めコート材は、中に混ぜておいた界面活性剤(セッケン)が表面に来た水に溶け込み、水の表面張力を低下させることで水滴を均一な水膜にするものがあります。お風呂場で鏡に石けんを塗ると曇りにくい現象がまさにそれです。他に、分子内に柔らかい吸水性ポリマー部位を持たせて、ポリマーが水滴を吸収する設計のものが使われています。しかし前者は時間とともに界面活性剤が全て溶け落ち性能が無くなってしまうこと、後者には防曇性を上げようと吸水ポリマーを増やすと耐摩耗性が劇的に落ちてしまうという本質的な課題がありました。
そうした課題に対して、ノストラ®は、UV硬化性のある反応性親水成分を表面に集積させ、それを分子間の強度を高めたUV硬化性樹脂で固定化するという設計を行うことで、これまで有機系材料では達成困難であったレベルの超親水性を持ちながら、耐水性と耐摩耗性を両立するという、これまでにない特徴を実現しており、幅広いお客様から高いご評価いただいております。
また、ノストラ®は、塗布・乾燥後にほんの数秒間UVを照射するだけで超親水性の膜が完成するため、生産現場の揮発成分を抑えることができ、エネルギー削減、高生産性に寄与する環境にやさしい素材でもあります。様々な素材にコーティングできるため、幅広い分野での展開可能性を有しています。

クルマのコーティングなどで、「撥水性」、「親水性」といった言葉をお聞きになったことはあると思います。
「撥水」は、水が玉になって転がるイメージです。これは、水が嫌がる相性の悪い表面(撥水性)に水が触れた時、できるだけ触れる面積を狭くしよう集まり、結果として玉状になった現象です。
「親水」はその逆で、水が大好きで相性の良い表面(親水性)に水が触れた時、できるだけ触れる面積を広くしようと水が広まっていき、結果として全体に薄い水の膜を形成する現象です。「曇る」という現象は水蒸気が結露する際に、微細な水滴が付く部分と付かない部分が出来てしまうことで起こりますが、ノストラ®の上ではすぐに全体に水滴が水膜になるため曇らないのです。
そのため、ノストラ®には水を広げて見えなくする機能という先入観がありましたが、今回We+さんは撥水性の板の上に部分的にノストラ®を塗装することで、水に好かれるから水を集め、水と手をつなぎ、逆さにしても垂れずに保持させる機能としてデザインされました。
このような発想の転換は、ノストラ®はじめ親水性素材の活躍の場を広げていくものと思います。

COMMENT

三井化学
合成化学品研究所
機能性コート・接着グループ

今回we+さんと「親水性」という表現が難しいテクノロジーの見(魅)える化に挑戦しました。この作品を一瞬見ただけでは何か分からないかもしれませんが、透明な板の表面、しかも下向きに水がジオメトリックに並んだ状態で保持されており、それを何と照明としてデザインされています。これはノストラ®の超親水という機能を分かりやすくも美しい表現に昇華頂けたデザインだと思っています。
最初は、光を通すとどのように見えるのかイメージが湧きにくかったのですが、水の揺らぎによる幻想的な光と影の動きが想像以上の光景で、思わず見入ってしまいました。今回の撮影中、みんなで何回「おおっー!」と言ったことか(笑)
秀逸なデザインを頂いたwe+さん、それを美しく切り取っていただいた林さんに深く感謝いたします。今回のコラボレーションを機に、より多くの皆様にノストラ®に触れて頂き、新しい親水の世界を見出したいと思っています。

we+ / 林登志也さん(左)、安藤北斗さん(右)
林登志也と安藤北斗により2013年に設立されたコンテンポラリーデザインスタジオ。プロダクト・インスタレーション・グラフィックなど、多岐に渡る領域のディレクションとデザインを行ない、テクノロジーや特殊素材を活用した実験的なアプローチを追求している。国内外での作品発表のほか、GalleryS.Bensimon(パリ)やRossanaOrlandi(ミラノ)等のデザインギャラリーに所属。
we+ 林登志也さん(左)、安藤北斗さん(右)
  • Concept+Design+Development/林登志也、安藤北斗、青木陽平、関口愛理
  • 撮影/林雅之
  • 動画編集/村瀬健一