今夜も窓に灯りがついている。

「窓の灯り」をテーマとして人気作家の方々にリレー形式でエッセイを執筆いただく連載企画

Vol.82 窓から生まれるストーリー

深川麻衣

いつだったか友達が、街に建っているタワーマンションを指差して、「タワマンを見ると、縦に真っ二つにしたら人が蟻の巣みたいにうじゃうじゃいるのを想像しちゃうんだよね。」と言っていた。今までそんな想像をしたことがなかったので発想が面白いなぁと思って、それ以来タワマンを見るとその子の発言を思い出して、ここにはどんな人が住んでいるのかなぁとか、つい断面図を想像してしまうようになった。

私が20歳で上京して初めて住んだ家は、3階建てのアパートだった。部屋は2階にあって、6畳の1K。築年数がそれなりに経っていてすごく綺麗とは言えなかったけれど、当時は荷物も少なかったのでちょうどよい広さで、道を挟んで向かい側のお家から時々聞こえてくるピアノの音がお気に入りだった。おそらくその家の子が練習しているのか、少し詰まったり同じ箇所を何度も弾き直したりしていて、少し不器用な音色だったけれどそれがとても心地よかった。

あともう一つ好きだったのは、部屋についていた大きな出窓。

一度、換気をしようと窓を開けたままにして外出したら、その間に虫が入り込んでしまったことがある。夜の11時頃そのことに気づき、虫に触れずしてなんとか外に追い出そうと2時間近く格闘した。大変な思いをしたけれど、今、振り返ってみるとそれもいい思い出の一つ。

早いもので、上京してからもうすぐ10年が経とうとしている。あのアパートはまだ変わらずにあるのかな。あのときピアノを弾いていた子はまだピアノを続けているのかな。

改めて考えてみると、窓は自分にとって部屋選びの重要なポイントの一つかもしれない。今住んでいる部屋も、色々と迷って内見した中で、「窓が大きめで位置も良くて、光がたっぷり入るから。」というのが大きな決め手になった。

あとこれは後になって気づいたことだけれど、道の上からマンションを見上げたときに、たまにプードルが窓際で日向ぼっこをしているのが見える部屋があって、そこも密かなお気に入りポイントになった。日によっていたりいなかったりするので、プードルを見ることができた日は何だか嬉しくなる。(私は心の中でプードルチャンスと名付けている)

外から見る「窓」という光景は、昼間は道を歩いていてもそんなに意識しないけれど、夜になるとたちまち主役になる気がする。

夜道、家やビルの窓から漏れる灯りを見るとホッとする。どこからか漂ってくる夕飯の香りと一緒に、人の存在や暮らしを近くに感じて安心する。

通りすがりの美容院、もう営業は終わっている時間帯、灯りの中にマネキンでカットを練習している人影が見えて、応援したくなる。

夜に見るタワーマンションは、窓の灯りがずらっと並んできらびやかで、何だかイルミネーションみたいで好き。

そういえば、静岡の実家に住んでいたとき、部活で帰りが遅くなるときは必ず、母が玄関の灯りをつけておいてくれたなぁ。暗い中自転車で帰ってきて、その灯りを見つけると嬉しかった。

部屋の中から見る窓は自分だけのものだけれど、外から見る窓はそんな街の景色や空気を作っていて、私の部屋の窓から漏れる灯りも、その中の一つになっているかもしれない。と思うと、少し嬉しい。

Vol.82 深川麻衣

PROFILE

深川麻衣

1991年、静岡県生まれ。女優。
乃木坂46の1期生として2011年から活動をスタートし、2016年にグループを卒業。
2017年に舞台「スキップ」で初主演。2018年公開の主演映画「パンとバスと2度目のハツコイ」で、第10回TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞。
2019年には「日本ボロ宿紀行」(テレビ東京)で連続ドラマ初主演を務め、同年、連続テレビ小説「まんぷく」(NHK)、「まだ結婚できない男」(関西テレビ・フジテレビ)に出演。映画では、2019年公開の「愛がなんだ」(今泉力哉監督)、「空母いぶき」(若松節朗監督)、2020年公開の「水曜日が消えた」(吉野耕平監督)に出演。
主演映画「おもいで写眞」(熊澤尚人監督)が2021年1月29日より公開中。
2021年NHK大河ドラマ「青天を衝け」に第十四代将軍・徳川家茂の正室・和宮役で出演。

COMMENT

「窓の灯り」というテーマを受け、エッセイに込めた思い
「窓」には窓の数だけ、いろいろなドラマが詰まっているなと、自分の記憶を掘り起こしながら書きました。
このエッセイを読まれた方へ
ちゃんとエッセイになっているか不安です。
読んでいただきありがとうございました。
ご自身の眠れない、眠らない夜に欠かせないモノ・コトは?
ベッドに寝転んだままタブレットで動画が見れる、タブレットホルダー。ダメ人間になります。