コミュニケーションが生まれる空間 Vol.13 中村 拓志毅氏

Creator File

  • センターラインアソシエイツ 松井るみ氏
  • トランジットジェネラルオフィス 岡田光氏
  • BOOK APART運営者 三田修平氏
  • 極地建築家 村上祐資氏
  • ツクルバ 中村真広氏/村上浩輝氏
  • 木村 英智氏
  • 豊嶋 秀樹氏
  • 木村 英智氏
  • SOLSO代表 齊藤 太一氏
  • 構造エンジニア 金田 充弘氏
  • スペースコンポーザー 谷川 じゅんじ氏
  • トラフ建築設計事務所
バックナンバー
  • 中目黒マドレーヌ店主 田中 真治氏
  • フラワーアーティスト CHAJIN氏
  • AuthaGraph代表 鳴川 肇氏
  • 昼寝城 店主 寒川 一氏
  • ランドスケーププロダクツ代表 中原 慎一郎氏
  • スタンダードトレード代表 渡邊 謙一郎氏
  • ブック・コーディネイター 内沼 晋太郎氏
  • 建築家 谷尻 誠氏
  • 茶人 木村 宗慎氏
  • 建築照明デザイナー 矢野 大輔氏
  • 音響演出家 高橋 琢哉氏
  • 一級建築士 中村 拓志氏
  • 建築家 加藤 匡毅氏
  • デザインチーム KEIKO+MANABU
  • 建築設計プロデューサー 小野 啓司氏
  • インテリア・エクステリアデザイナー 佐野 岳士氏
  • 建築家 木下 昌大氏
  • 建築家 猪熊 純氏
  • 大学教授 手塚 貴晴氏
  • 建築家 二俣 公一氏
  • 建築家 梅村 典孝氏
  • 建築家 長岡 勉氏
  • 建築家 平田 晃久氏
  • 建築家 迫 慶一郎氏
中村 拓志氏 中村 拓志氏

(なかむら・ひろし)

中村拓志&NAP建築設計事務所代表取締役
1974年東京生まれ。石川県金沢市、神奈川県鎌倉市で少年時代を過ごす。99年明治大学大学院理工学研究科博士前期課程修了。同年隈研吾建築都市設計事務所入所。2002年NAP建築設計事務所設立。Design Vanguard 2010 ARCHITECTURAL RECORD TOP 10 architect in the worldほか、受賞多数。著作に「微視的設計論」(INAX出版)、「恋する建築」(アスキー)など。

Presented by YKKap

「ふるまい」で人々をつなげる

 例えばお辞儀をされると、思わずこちらも頭を下げる。同じふるまいをすると互いの間に了解が生まれ、それが積み重なると共同体の感覚が生まれます。海外でも同様で、イスラム教の聖地メッカで神殿の周りを皆で回るのもそう。欧州の、上へと伸びるゴシックの建築様式は、見る人の視線を縦に誘導し、神への崇敬を自然と抱かせます。元来建築は政治や宗教の儀式と共に発展してきましたから、ふるまいを集積して人々の心をつなぐのは得意なんです。

 4月18日に開業する「東急プラザ表参道原宿」の屋上には、階段ともベンチともつかない微妙な起伏を設けました。訪れた人それぞれが使い道を発見して、能動的に活用してもらうためです。全体で見ると、その起伏は広場を囲い、ゆるやかなすり鉢状の構造になっています。人は普通、足を低い方に置きますから、視線は自然と中央に集まります。何となく皆が同じ方向を見ることで、微かな一体感が生じる。同じふるまいでつながっていく感覚です。

 建築から人々の能動性を刺激して、そこから人と人の関わり合いが生じていく。それが建築ができるコミュニケーションデザインだと、僕は考えています。

「窓」が場所性を生む鍵に

 人が身体全体で実空間と関わるようなあり方は、近代建築ではあまり考えられていませんでした。視覚的な美しさの方が大切にされてきたんです。建築デザインでも、対象とデザイナーの距離がとても離れていて、よく「神の視点」という言い方をすることも少なくありません。平面図はまさに象徴的で、スライスした建築を何百キロも上空から見ているような図面ですよね。

 ネット空間が肥大化したいまだからこそ、実空間では、現実世界で得られる価値を際立たせることが求められていると感じます。だからこそ五感で感じる身体性がキーワードになるんです。

 空間と身体の関わり合いではさらに、その場所でしか得られない「場所性」が大切になっていきます。

――木洩れ日が道路に光の玉を描き、風が吹くとそれがさわさわと揺れる。着飾った人々が集まって、互いに見る・見られるの高揚感に包まれながら、買い物をする――こうした感覚や表参道ならではの体験を、どうやって増幅していくか。「東急プラザ表参道原宿」でも強く意識した点です。

 ポイントになったのは「窓」です。それまで商業施設に窓を設けるのはタブーでした。商品が日焼けしてしまうし、来店者が景色に目を奪われて、商品に集中できなくなる。室内デザインの柔軟性も失われてしまいます。ですが今回は、場所性を高めることを優先し、窓を設けました。

 これらの課題を解決したのは木です。窓の側に木を植えて、日の光を弱めながら、表参道に来ていることが実感できる程度に外の雰囲気が伝わってくるようにしたんです。いままでの文脈ならフレキシブルでないと否定されていたものをどう使いこなすか、不自由さをどう楽しむか、というデザインも生まれていきます。そうやって人が不自由さを克服していく姿も僕は、建築デザインがもたらせるもののひとつだと感じるようになりました。

「ブレーン」2012年5月号より

「ブレーン」のサイトはこちらから

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東急プラザ表参道原宿 建物全体の形をえぐるように生い茂る木々。建築と人と木の関係を描くのも中村拓志さんのテーマのひとつ。

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JAL 羽田空港国内線ラウンジ 鳥が大空に飛び立つ前、巣で羽根を休めている姿をイメージしたラウンジ。たちあがると大きなフロアに、座っている間は個室のような印象になる。

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Lotus Beauty Salon JALラウンジ同様、パブリックスペース内に、プライベートな空間を生み出した。美容室スタッフの目線では店内全体を見渡せるが、カット中の来店者の目線だと個室になるよう、しきりの高さを調整している。

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Lanvin Boutique Ginza 東京・銀座の中央通り沿いにあるブティック。壁にたくさんの穴が空いていて、つい、一歩進んで覗いてみたくなる。日の入り後は店内の光が水玉模様を壁面に描き、日中は、太陽の光が店内に差し込んでくる。

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